太宰治『人間失格』3分で分かる簡単なあらすじと感想&徹底解説!

人間失格

読書好きならたいてい誰もが知る太宰治『人間失格』!
「失格」か「合格」かで論評が分かれる本作は、映画化・ドラマ化・漫画化・アニメ化をはじめ、数々のオマージュ作品が今でも作られ続ける不朽の名作として知られ、近現代作品の中でも、ベスト3に入るほどの人気作品ではないでしょうか。

今回は太宰治の小説『人間失格』のあらすじから主人公の人となりを見つめ、本作が「どのような主張を訴えたのか?」について感想を語ります。

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『人間失格』作品詳細

著者:太宰治
出版社:集英社
発売日:1990年11月20日

概要

昭和23年に『展望』という連載誌に掲載された本作は、のちの遺作『グッド・バイ』と並行する形で刊行された。
玉川上水で入水自殺をはかる凡そ一ヶ月前の刊行になります。

新潮文庫独自の累計だけで600万部を取っており、夏目漱石『こころ』と並ぶ一大傑作と評されます。
本作の脱稿については長い間「勢い任せに書かれた、走り書きのような作品」と言われ続けてきましたが、直筆原稿を見ると200字詰めで157枚に及ぶ中編の量を有畜しており、その内容は構想と推敲が練り尽くされた「用意周到の緻密な作品」と見直され始めています。
私小説の形で、日記調の体裁です。

映画化などへの略歴

{映画化}
●太宰治の生誕100年を記念して、平成21年に荒戸源次郎監督による映画化が発表。

〈スタッフ〉
監督:荒戸源次郎
脚本:浦沢義雄、鈴木棟也
音楽:中島ノブユキ
企画/製作総指揮:角川歴彦
制作プロダクション・配給:角川映画

〈キャスト〉
大庭葉蔵:生田斗真
大庭葉蔵(少年時代):岡山智樹
堀木正雄:伊勢谷友介
常子:寺島しのぶ
良子(よしこ):石原さとみ
鉄:三田佳子

{テレビアニメ化}
●平成21年10月より、日本テレビ系列にて放送された「青い文学シリーズ」の中の1作として放送。

{ラジオドラマ化}
●平成21年5月に、J―WAVEで「Art Of Words〜櫻井翔の『人間失格』」を放送。櫻井翔主演。ラジオドラマの他に猪瀬直樹VS櫻井翔のスペシャル対談も放送された。

{漫画化}
・人間失格―作画:比古地朔弥。
・人間失格―作画:古屋兎丸。『週刊コミックバンチ』にて連載。
・人間失格 壊―作画:二ノ瀬泰徳。『チャンピオンRED』にて連載。
・人間失格―作画:伊藤潤二『ビッグコミックオリジナル』2017年第10号から連載中。

{本作に影響を受けた出版・音楽作品}
・「文学少女」シリーズ – 第1作『「文学少女」と死にたがりの道化(ピエロ)』は人間失格を題材にしている。
・人間・失格〜たとえばぼくが死んだら – タイトルの使用について遺族から抗議を受けた。内容的には本作品とは関係は無い。
・さよなら絶望先生 – 主人公「糸色望」の性格設定は本作品の主人公である大庭葉蔵もしくは太宰治自身をモデルにしており、悩み相談室にて「恥の多い生涯を送ってきました」というセリフを吐いている。
・Rainy Soul:日本のバンドGARNET―CROWによる楽曲。
・人間失格―日本のバンドSOPHIAによる楽曲。
・人間失覚―日本の女性歌手VALSHEによる楽曲。
・인간실격―韓国のバンド알섬による楽曲。

『人間失格』の主な登場人物の名前一覧

●大庭葉蔵
主人公。
東北の金満家の末息子。
子供の時から気が弱く、人を恐れているが、その本心を悟られまいと道化を演じる。
自然と女性が寄ってくる程の美男子。

●竹一
中学校の同級生。
葉蔵の道化を見抜く。
葉蔵に対し「女に惚れられる」、アメデオ・モディリアーニに霊感を受け書いた陰鬱な自画像を見て「偉い絵画きになる」という二つの予言をする。
顔が青膨れで、クラスで最も貧弱な体格。

●堀木正雄
葉蔵が通う画塾の生徒。
葉蔵より6つ年上(26~27歳)。
葉蔵に「酒」「煙草」「淫売婦」「質屋」「左翼運動」など様々なことを教え、奇妙な交友関係を育む。
遊び上手。下町・浅草で生まれ育っており、実家はしがない下駄屋。

●ツネ子
カフェの女給。
22歳。
広島出身。
周りから孤立していて寂しい雰囲気がある。
夫が刑務所にいる。
葉蔵と入水心中して死亡する。

●シヅ子
雑誌の記者。
28歳。
山梨出身。
夫とは死別。
葉蔵に漫画の寄稿を勧める。
痩せていて背が高い。

●ヨシ子
バアの向かいのタバコ屋の娘。
初登場時18歳。
処女で、疑いを知らぬ無垢な心の持ち主。
信頼の天才。
色が白く、八重歯がある。

●ヒラメ(渋田)
古物商。
40代。
東北出身。
計算高く、おしゃべり。
葉蔵の父親の太鼓持ち的な人物。
葉蔵の身元保証人を頼まれる。
眼つきが鮃に似ており、ずんぐりとした体つきで独身。

引用元:wikipedia


〈参考書籍〉

①『人間失格』

著者:太宰治
出版社:角川書店
発売日:2007年6月23日

②『人間失格・走れメロス』

著者:太宰治
出版社:双葉社
発売日:2016年11月16日

③『太宰治の世界 走れメロスと人間失格』

著者:如月翔悟
販売:Amazon Services International, Inc.
フォーマット:Kindle版

【簡単】3分でわかる『人間失格』のあらすじ

主人公・大庭葉蔵の手記「第一の手記」「第二の手記」「第三の手記」で始まる本作は、初めから日記調の展開で、主人公・大庭葉蔵の毎日の生活を告白するような体裁を取る。

「第一の手記」から大庭による自身への自虐が始まり、その自虐は物語の最後まで反映される。
人と違った感覚を持つことが彼の悩みであり、たとえば写真に写る自分の笑顔や表情1つにしても、「気持ち悪い」、「人の自然な表情とは違う」など、自分の取る行為を自虐ネタにしてしまう。

「恥の多い生涯を送って来ました。」
この言葉でわかるように、大庭の人生への向き合い方は、人や物事から身を避けることを方針としたもので、言ってしまえば引きこもりのような生活姿勢である。

生来の臆病からこの生活姿勢を取らされる大庭は、対人における1つの打開策として「道化を演じる法」を選ぶ。
この「第一の手記」では一人称視点による表記。

「第二の手記」から三人称視点が織りなされ、悪友・堀木が登場する。
この堀木に大庭は唯一心を許しており、よく堀木に連れられてスナックやキャバレー(当時のカフェ)に通い詰め、プライベートでも交流を深める。

そうしながら大庭はこの堀木にタバコや女遊び、また左翼思想を覚えさせられ、生活にやや自堕落な様子を垣間見させる。
大庭はこの「手記」において見初めた女と心中未遂をし、自分だけが助かったことで自殺幇助罪に問われてしまう。

このことをきっかけに、大庭は父親をはじめ実家との関係を希薄なものとしてしまい、事実上、完全な孤独を手にすることになる。

「第三の手記」から孤独と向き合いながらの大庭の生活が色濃くなり、バーのマダムや一般女性との交際を経て、まずまず堕落に輪をかけていく。
将来設計を図ってみるもイメージが湧かず、日々のアルコール・モルヒネ依存により、極度の不安と神経過敏による体調不良に陥ってしまう。

体調を壊してもアルコール・モルヒネ依存はやめられず、ついには雪の降る晩、道端で喀血する。
喀血後、堀木から「病院に行こう」と勧められてついて行くが、そこは思っていたサナトリウム(療養所)とは全く別の脳病院であり、まるで「人格破壊のレッテル」を貼られたと思い込んだ大庭は、自分は人間のあり方に失格した廃人であると認める。

「人間、失格。」

自分は人間ではないので、人間の不幸も幸福もない。
ただ自分を取り巻く環境の中で、唯一自分にとって真実らしく思えたことは、「一切は、過ぎてゆく」という経過だけだったとして、物語の告白は終わる。


↓参考書籍↓

①『名著をマンガで! 人間失格』

著者:太宰治
出版社:学研プラス
発売日:2016年3月28日

②『人間失格 「それでも生きる」 太宰治50のことば』

著者:太宰治
出版社:ゴマブックス
発売日:2009年4月27日

③『人間失格 小説・人間失格とその資料』

著者:太宰治
編集:人間失格研究会
発売日:2012年12月12日
フォーマット:Kindle版

『人間失格』の結末(ラストシーン)

大庭葉蔵は最後、脳病院へ送られて、人間の社会と隔離させられたように閉じ込められます。
そこで彼は、まるで人間の世間で覚え続けてきた悩みや苦しみというものを、半ば達観したような(人の世界を天上から俯瞰したような)姿勢でもって、自虐とも自賛とも言えないような、何とも言えない様子を窺わせます。
この結末をどう読むかで、おそらく本作への感想はさまざまに分かれることでしょう。

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【考察・解説】主人公の人となりを見つめて、本作はどのような主張を訴えたのか?

●私は、その男の写真を三葉、見たことがある。

冒頭から完全な客観視点でものを見つめ、自分の様子や内実も、読者に訴えかけるようにして自虐のネタにしている。
ここでは、読者をはじめ他人に自分の内容を聴いてもらいたい、といった主人公の心の開放が見受けられ、いえば劇場型のストーリー描写が目立っている。

●恥の多い生涯を送って来ました。

インパクトのある書き出しで、ここでさらに読者に「聴いてほしい感」を伝える自分の暴露をメインにしている。
こう言われれば「どんな恥?」、「どんな生涯?」といったような、「次」を求める心理があがって不思議ではない。
日記調のリアルなストーリー展開が、このようなベースによりさらに奥行きを増す。

●どうするつもりなんです、いったい、これから

ヒラメの家で、大庭がヒラメから言われた言葉。
ちょうど大庭はこのころ心中未遂を遂げたところで、前科者として登場している。
それまでの大庭にまつわる「人として悲惨な経過」を見たことでヒラメは、大庭の将来について不安がっている様子。
大庭はこのヒラメの質問には何も答えず、悪ふざけしていた堀木との交友を懐かしみ、また「自由がほしい」と心内で思う傍ら、また自分を客観視するような傍観の立場を決め込んでいる。

●あなたを見ると、たいていの女のひとは、何かしてあげたくて、たまらなくなる。…いつも、おどおどしていて、それでいて、滑稽家なんだもの。

大庭がシヅ子に言われた感想で、「何かれにつけて世話をしたくなる」と言わせる大庭の普段の様子を垣間見させる言葉。
自虐的であっても、内向的に生活を送っていても、絶えず女性からの好感を得ることができ、大庭という人間像は、余程の母性愛をくすぐる未熟を宿した人物と表現できる。

●この野郎。キスしてやるぞ

タバコ屋の娘に大庭が調子に乗って言い放ったセリフ。
これに「してよ」と難無く切り返す娘は大庭の人となりをとても気に入っている様子で、大庭はこれに対して貞操観念を持ち出し、娘の願望を叶い入れない。

人としての道徳を一応は守る一面を持ち、女性とのロマンスでもいっとき欲しがる様子を見せる大庭。
大庭はこれまでに、堀木から「色欲魔人」という通称を与えられている。

●おい! とんだ、そら豆だ。来い!

大庭の家に遊びに来ていた堀木が大庭に向けて言い放った言葉。
大庭の妻が行きずりの男に自宅で襲われた光景を見て、急いで大庭本人を呼び付け、堀木がこう言った。
自分の妻が犯された光景を見ても、大庭はとりわけ取り乱さなかった。

●自分は起き上って、ひとりで焼酎を飲み、それから、おいおい声を放って泣きました。いくらでも、いくらでも泣けるのでした。

妻が犯された光景を思い出し、誰もいない部屋で焼酎を飲んでいたときの大庭の様子。
取り乱さなかったとはいえ、それは人前での体裁があるためとも考えられ、本来の大庭は「妻が犯されたこと」にひどく悲しめる優しい心の持ち主とも言える。

●いい。何も言うな。お前は、ひとを疑う事を知らなかったんだ。お坐り。豆を食べよう

行きずりの男に体を許してしまった妻が、大庭に向けて弁解しようとしたときに、大庭が妻に向けて言った言葉。
とても寛大な心の持ち主に見えるが、あの光景を見たときに比較的冷静でいられた大庭ならではのセリフとも取れる。
また大庭の生来の優しさの故とも取れる。

●ゆるすも、ゆるさぬもありません。ヨシ子は信頼の天才なのです。

妻(ヨシ子)の不貞に見られておかしくない行為への、大庭の気持ち。
自分は人の過失を責める資格はない、と断言している。

●まあ、しばらくここで静養するんですね

大庭が入院させられた脳病院の医師から、大庭が直接言われた言葉。
ここで、これまでの堕落したような生活に終止符を打ち、弱った心身を回復させようと、新しい人生への拍車をかけられる。
けれどこの頃から大庭は世間と自分との関係を断ち始める。

●人間、失格。 もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。

脳病院での入院中の大庭の語り。
励まされても治療を受けていても、大庭の心はこの言葉で締めくくられる。
この言葉にはなにか、あわただしく、競争めいた社会・世間からの、卒業した快適さすら窺われる。

●いまは自分には、幸福も不幸もありません。 ただ、一さいは過ぎて行きます。

人間を失格して、自分は人間ではなくなったからと、大庭は自分に「人間としての幸福も不幸もない」と言い切っている。
そして自分に感じられる唯一の真実は、「一さいは過ぎて行く」という時間の経過だけである。

これらの内容から見て取れる「大庭という人間像」は、実に現代でもよく見られる「引っ込み思案ながら気の多い人物」というもの。
自分の興味ある物ごとにはめっぽう注意を取られ、それなりに楽しいことはし続けていき(アルコールやタバコ、女との交流や主観の保護)、少し自分にとって不都合な出来ごとがあると、途端に消極的になり、絶望を覚えやすい(自殺未遂の連続)。
いえば、精神的に弱い人間像の主張です。

―この人間像を描写したストーリーをもって、本作は何を語っていたのか?―

それは、

こんな人が存在する。
だから今悩んでいる人、また絶望に打ちひしがれている人たち、君の下にはもっと底辺に生き続ける人の様子がある。
だから、絶望するな

といったような、人間賛歌、あるいは生命賛歌を掲げたものではないでしょうか。

人は上を見て向上すると言いますが、逆に下を見て安心するものです。
とくに何かで絶望したときなどは、この「下を見る」という行為により「自分よりもっとひどい劣遇にある人がいる」と心底からの励ましを得ます。

そしてまた「明日に向かって頑張ってみよう」という気にさせられるものです。
つまりこの『人間失格』という作品は、「人を心の底から励ましている作品」と言えます。

よくある日常の光景から「人の脆さ・弱さ」を引き出して描写していき、最終的には俗世間から主人公を逸脱させた形で終わらせています。
そして逸脱した先の脳病院で、主人公は人間を超越したような生き物になり、それまでの苦悩からある意味解放されます。

そうして主人公は、幸福がない代わりに不幸や苦しみさえ無い、まるで人の世界を達観したような空間へ入っていくわけです。
不幸が無いから幸福がどんなものかも感じられない、という点を覗けば、この「不幸と苦しみが消えたこと」は絶大的な効果でありましょう。

私が『人間失格』を読んで心が楽になったのも、こうした背景があったからかも知れません。


↓参考書籍↓

①『太宰治「晩年」を読む』

著者:いとうせいこう
発売日:2017年5月26日
フォーマット:Kindle版

②『太宰治検定公式テキスト』

著者:太宰治検定実行委員会
出版社:NPO法人 おおまち第2集客施設整備推進協議会
発売日:2009年3月1日

③『一冊で名作がわかる太宰治』

著者・編集:小石川文学研究会
監修:渡部芳紀
出版社:ロングセラーズ
発売日:2007年7月1日

④『はじめての太宰治―太宰治の名言、愛した女性、そして生き方を完全ガイド』

著者:知的発見!探検隊
出版社:イースト・プレス
発売日:2009年10月1日

『人間失格』書評

【評価:5.0】

太宰作品の内ではおそらく、最も有名で、最も世間に影響を与えた一作と言ってよいでしょうか。
発表から一世紀が過ぎようとしている現代でも、これほどの影響を与え続け、人の心への感動を及ぼす作品はそうあるものではありません。
本作の凄い点は、この「一世紀近くが経ち、発表当時とは世情もそこに生きる人間の流行が全く変わり果てても、変わらず読者から受容され続けているという点」です。

まとめ&感想

たいていの作品は、その時代の変遷によって内容が劣化して、なかなか当時においてウケた描写や表現でも受容されにくくなるものです。
それを、ずっとその内容をもって読者に影響を与え続け、これだけの人の共感を得、さらにオマージュ作品やスピンオフ作品がいくつも作られている現代を見ていると、この「劣化」という形容がまるで本作には当てはまらないような、一種の「凄み」のようなものを思わされます。

私的に、作品として欠点に思えるところはありません。
作品としては実によくできた、よく書けた内容だと実感させられます。
読書好きでありながら、まだ本作『人間失格』を読んだことがないという方は、ぜひこれを機会に、一度読んでみて下さい。


↓さらなるおすすめ書籍↓

①『桜桃・雪の夜の話―無頼派作家の夜』

著者:太宰治
編集:七北数人
出版社:実業之日本社
発売日:2013年12月5日

②『女生徒』

著者:太宰治
出版社:角川グループパブリッシング
発売日:2009年5月23日

③『パンドラの匣』

著者:太宰治
出版社:新潮社
発売日:1973年11月1日

④『太宰治 100の言葉』

監修: 安藤宏
出版社:宝島社
発売日:2016年3月2日

⑤『読んでおきたいベスト集! 太宰治』

著者:太宰治
編集:別冊宝島編集部
出版社:宝島社
発売日:2011年7月7日


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