貴志祐介『黒い家』原作小説のあらすじと感想&徹底解説!※ネタバレ

黒い家

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貴志祐介の『黒い家』は、保険金殺人がテーマに敷かれた作品で、ホラー小説・ホラー漫画及びそれを原作とした日本と韓国のホラー映画が製作されている。
第4回日本ホラー小説大賞受賞作。

発表当時はちょうど和歌山毒物カレー事件が起きており、その事件経過と内容が酷似していたため話題となった(ちなみに和歌山毒物カレー事件の方が後に起きている)。

今回は貴志祐介の『黒い家』のあらすじとともに、「どのような恐怖が潜んでいるか?」について解説します。

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『黒い家』作品詳細

著者:貴志祐介
出版社:角川書店
発売日:1998年12月1日

概要

保険金殺人がテーマとなっており、狂気に満ちた妻とその夫との家族模様を描きながら、保険会社に勤める主人公・若槻との密接かつ奇妙な関係を描いていく。
本作品の発表翌年に発生した和歌山毒物カレー事件と内容が酷似していることで話題となった。

書評家の西上心太は、超能力や妖怪などの超自然的存在を利用せずに血も凍る恐怖を描くことに成功した、と評している。
1999年には、森田芳光監督、内野聖陽・大竹しのぶ主演で映画化された。2007年には韓国でリメイク版が制作された。

映画作品

●日本版(1999年)
同年11月13日、松竹の配給で公開。
原作者の貴志が営業マン役で出演している。
角川ホラー文庫のシナリオ集「映画版黒い家」では山崎まさよしの役名を当てるクイズキャンペーンが行われた。
監督:森田芳光
プロデューサー:柘植靖司(他)

●韓国版(2007)
同年6月21日公開。
ホラー映画史上では最多の353館で公開され、公開2週目で観客動員数100万人を記録した。
日本では2008年4月5日に角川映画の配給で公開。
R―15指定。
監督:シン・テラ
脚本:イ・ヨンゾン

引用元:wikipediaamazon

『黒い家』の主な登場人物の名前一覧

若槻慎二(わかつきしんじ)
保険会社「昭和生命」の社員。

菰田幸子(こもださちこ)
複雑な生い立ちを持つ主婦。重徳と再婚。

菰田重徳(こもだしげのり)
自分で自分の指を切断し障害給付金を取るために保険に加入していた。

黒沢恵(くろさわめぐみ)
若槻の恋人。

葛西好夫(かさいよしお)
若槻の直属上司。

松井刑事
右足を引きずって歩く金沢中警察署の刑事。

三善茂(みよししげる)
保険会社社員。元極道。


↓参考書籍↓

1『邦画映画チラシ「黒い家 内野聖陽 原作 貴志祐介」』

著者:邦画 映画チラシcinema-TAKA
出版社:東和、松竹、ユナイト
発売日:2017年3月28日

2『avapo117 劇場映画ポスター【黒い家】』

著者:邦画劇場映画ポスター cinemaTAKA
出版社:東映映画
発売日:2017年4月17日

【簡単】3分でわかる『黒い家』のあらすじ

生命保険会社に勤める若槻は、菰田重徳という男から電話を受け、「家に来てくれ」と言われる。
菰田家を訪問し居間に通された若槻は、菰田の子ども(妻・幸子の連れ子)の首つり死体を目撃する。
このとき菰田は、死体を目撃した若槻の様子をじっと観察していた。

菰田は以前から、自傷により保険金をせびる常習であり、保険会社からマークされていた。
そのため、今回も執拗に保険金の支払いを願い出てくる菰田の様子に不信を感じ、若槻は菰田の偽装殺人を疑う。
そして、菰田の妻・幸子に、注意勧告の手紙を送りつけてしまった。

それから妻・幸子が若槻の前に頻繁に現れるようになる(菰田自身は怪我をして入院している)。

保険金がらみの偽装殺人をした首謀者が「菰田重徳」と疑う若槻だったが、この頃から段々妻・幸子の方に疑念を傾けるようになる。

この一連後、妻・幸子は「保険金が下りないこと」に腹を立て、若槻や若槻の関連人物への攻撃に出始める。
若槻のプライベートを狙う形で幸子は、若槻のアパートにも侵入するようになる。

そのストーカー行為において、若槻、若槻の恋人・恵、若槻が事件解決を依頼したベテラン刑事、またさらには勤め先のお得意さんにまで、幸子の異常な行動は降りかかる。

恵は大学の研究室で心理学を専攻しており、同じく研究室に勤める助教授・金石に、菰田重徳・菰田幸子のプロファイリングをしてもらう。

それにより菰田夫妻は、
・良心が異常に欠如している
・他者に冷淡で共感しない
・罪悪感が皆無
・慢性的に平然と嘘をつく
・自尊心が過大で自己中心的
などの症状が見られるサイコパスと診断される。

この診断を下した直後、金石は何者かにより惨殺された。
事件解決を依頼されたベテラン刑事は、幸子の身辺を調べるべく、幸子の自宅を訪れた際に惨殺された。
戻らない刑事の様子に不審を覚えた若槻と恵は、真偽を確かめるべく、幸子の家を訪れる。

ちょうど幸子の不在時を狙った訪問だったが、そこで刑事の死体を見てから恐怖を知った。
恐怖に襲われつつも「幸子が真犯人」と確信した2人は、他にも証拠がないかと探索してしまう。
そこにちょうど幸子が帰宅した。

2人は何とか幸子の目をかいくぐり、命からがら逃げることができた。
幸子は警察に追われながらも身を隠し、ある日の夜、若槻が仕事を終える頃、若槻が勤める会社に侵入し、若槻を殺そうと画策する。

保険会社ビルの中で繰り広げられる壮絶なバトル!

そしてついに若槻は、幸子から逃げるうちに追い込まれた階段で、ちょうど目前に置かれてあった消火器を取り上げ幸子を殴り、幸子はそのまま死んだ。
こうして若槻はやっと幸子の恐怖から逃げきることができた。


↓参考DVD↓

1『黒い家』

出演:内野聖陽、大竹しのぶ、西村雅彦、田中美里、石橋蓮司
監督:森田芳光
販売元:PI,ASM/角川書店
発売日:2001年1月26日

2『黒い家 スペシャル・エディション』

出演:ファン・ジョンミン、カン・シニル、ユ・ソン、キム・ソヒョン
監督:シン・テラ
発売元:角川エンタテインメント
発売日:2008年9月5日

『黒い家』の結末(ラストシーン)

菰田幸子への数々の疑念を抱えたまま、若槻は保険会社での通常勤務を続けます。
そうしながら、幸子の異常な行動から自分の親しい人・恵を、とにかく幸子から遠ざけようと、若槻は苦心惨憺して防御策を講じます。

幸子は恵から視点を切り替え、今度は保険会社のお得意さんの女性に目をつけ、彼女を操ることにより、若槻に接近しようと目論みます。
人気のひいた夜の保険会社はシャッターを下ろし、警備員を増やし、外部侵入者を入れさせないようにバリアを張っています。
幸子はこのお得意さんの女性を利用し、警備のバリアを崩し、若槻を殺そうと迫ります。

そしてエレベーターと階段で逃げまくるうち、ついに幸子に捕えられた若槻は、階段に置いてあった消火器で幸子の頭を殴りつけ、やっとの思いで幸子の恐怖から逃げ切ります。

『黒い家』には、どのような恐怖が潜んでいるか?

本作「黒い家」のベースは先述通り、「保険金がらみの殺人事件」の経過です。
しかしいわゆる保険金がらみの偽装殺人も、作品ならではの描写や展開のあり方により、さらなる魅力や深みが補強されます。

今回は本作で描かれる場面を5つピックアップして、本作が持つ恐怖の中身を徹底的に語り尽くしたいと思います。

●日常の風景から、人のエゴによる恐怖が急にやってくる。

保険会社に勤める若槻の前に菰田重徳が現れ、保険金の無心をし始める。
この場面の展開を簡潔に下記してみる。

・電話を受け若槻は、菰田家を訪れる。
・菰田重徳は若槻を自宅へ招き入れ、もてなしも何もないまま居間へ通す。
・ぶらんぶらんと息子の首つり死体が、そのまま居間に放置されている。
・この首つり死体を眺める若槻の様子を菰田重徳は、わが子の死への悲しみは一切ないまま、ただじっと観察している。

この4つの経過にすでに、人の自己中心的な行動の恐怖が隠されている。
「保険金をもらう」という目的のためには常識も何も一切を捨て、ただ金の出どころだけを無性に心配する菰田の様子。
この様子は、日常でも何かに没頭する人の姿に重なってくる。

●悪の主犯が実は別の人物だったことによる恐怖

若槻ははじめ、菰田重徳を「子殺し」の真犯人だと思っていた。
けれど菰田は入院し、代わりにその妻・幸子が菰田以上に「保険金の無心」をしてきて、「はじめの予測」を簡単に裏切る経過を見せてくる。

この様子はたとえば、「安心していた者に裏切られる恐怖」を思わせる。
この安心していた者が自分の身近にいればいるほど、この恐怖は増大してくる。

若槻は、「自分が菰田家の様子を疑っている」という本音を、実は菰田重徳を動かし、悪の主犯だった妻・幸子に告白する結果になってしまった。

●「刃物で殺害する」というありふれた行動も、実体験すると余程に怖い!

本作で描かれる犯行までの展開とその犯行をなす人の心理描写は、緻密な表現により支えられている。
だからその表現は読者を納得させるリアル感を持ち、作品世界に読者をすっと解け込ませる巧さを併せ持つ。

したがって展開に無理がなく、その自然描写はそのまま「最大の恐怖を表す要素」になっている。

幸子は犯行にハモ切り包丁を使う。
普通の包丁よりも刃の部分が長い物。
刃物による殺人事件などニュースで頻繁にやっている。「よくあること」と軽い気持ちで読んでみても、本作の卓越した描写に余程の恐怖を覚えさせられてしまう。

とくに若槻と恵が「刑事が戻らない」のを不審に思い、菰田家を訪れた際に幸子と交わす「静かなバトル」は、この「余程に怖い体験」を見事に表している。

●迫りくる恐怖

犯人というのは、自分の正体がバレないうちは通常の振舞いをし、その狂気を常に隠しておくもの。
けれど一旦素性がバレてしまうと、それまで見せなかった強靭な狂気をフルに発揮させ、自分にとって邪魔になるものをことごとく除外しようとしてくる。

幸子もこの経過を辿り、若槻や若槻の関連人物に脅威の刃を突きつけ、自分の思い通りにことを運ぼうと躍起になる。
この極めて強い自己中心への執念は、ひょんなきっかけから引き起こされる。

若槻が、ふと菰田家の様子に「偽装殺人」への疑念を持ち、結果的にその疑念は幸子の知るところとなったため、幸子は若槻を「邪魔者」と見て執拗に追うようになる。
そしてその「追い方」は、日常生活ではなかなか見えない「暗躍」のように迫ってくる。

いつ、どこから、菰田幸子が自分を襲ってくるか、若槻は全く知らない。
自分の親しい人物が、いつどこで菰田幸子に襲われてしまうか、同じく若槻は全く知らない。

この闇から迫る「人のエゴによる恐怖」というものが、「迫りくる恐怖」にそのまま変遷しているのだろう。

●さらに大きな恐怖到来の予感、連日居残る恐怖の存在

本作のラストは、菰田幸子による恐怖が拭い去られ(事件解決し)、また日常の光景へ戻るところで終わっている。
若槻は菰田幸子事件のあと、また今まで通りに保険会社勤務に就き始める。

その日常の光景の中で、また菰田重徳・菰田幸子のような、「保険金の無心」をする男が現れる。
この男は大柄で、菰田幸子よりもさらに腕力のある者、と形容される。

保険会社は存続し、保険会社に保険金を受け取りに来る人も変わらず存続している。
いわばこれが日常の光景だろう。

若槻はこの「保険金を無心する大男」を見て、
「これからが、さらなる本当の恐怖の幕開けかも知れない…」
と予感している。

つまり「保険金を無心する人」が存在する以上、菰田幸子事件が解決したことで漸く取り戻せた幸せも安心も、全て失くされてしまう。

この5点を反省して「本作が持つ恐怖の中身」を覗けば、その恐怖の出どころは「日常」にあります。
日常でよく見かける「保険金問題」や殺人事件、人のエゴによる葛藤や、親しい人が亡くなることへの恐怖など、そのどれもが「ごく日常的な出来ごと」に起因しているといってよいでしょう。

「自分も、いつかこんな恐怖に襲われるかも知れない」

こう言わせる本作の描写と設定の底力が、本作の恐怖を土台から支えているのでしょう。


↓参考書籍↓

1『十三番目の人格(ペルソナ)―ISOLA』

著者:貴志祐介
出版社:角川書店
発売日:1996年4月18日

2『硝子のハンマー』

著者:貴志祐介
出版社:角川書店
発売日:2007年10月1日

『黒い家』書評

【評価:4.5】

文章は読みやすい上、「次の展開が早く知りたい!」とハラハラドキドキを醸す構成の巧さが抜群です。
加えて人物描写や背景設定などもしっかりしており、読み物としてもかなりの出来栄えとしてよいでしょう。

本作は中長編ほどの文量ですが、その表現の上手さで一気に読まされます。
ホラー物はたいてい「オチが見えてしまうと面白くない」と言われがちですが、本作の凄さはこの「オチ」が見えても読書欲を甚大に掻き立てられるところ!
しっかりとしたストーリーで、読み応えのある「ホラー小説」を読みたい人には、ぜひおすすめしたい一品です。

まとめ&感想

本作の魅力は何といっても「無理のない自然の経過が見せる恐怖」でしょうか。
こうなればこうなるだろう、こうくればほとんどの人はこうするだろう、などといった人の自然な行為に焦点を置き、それでいてストーリー展開も日常の流れを映し続けています。

私は大学生頃に本作を読みましたが、本作により植え込まれた恐怖は未だに拭い切れません。
それだけ本作が持つ恐怖の威力というものは、ホラージャンルの他作品と比べて抜群のうま味を持っているのでしょう。

「ホラー小説が大好き!」という人には、ぜひ読んでほしい一作です!
好きでなくてもホラー物に多少の興味がある人ならば、本作の妙味というか底知れない魅力を心底から味わえるでしょう。


↓さらなるおすすめ書籍↓

本作を読む前の予備知識として、他の貴志作品のいくつかをご紹介します。

1『狐火の家』

著者:貴志祐介
出版社:角川書店
発売日:2011年9月23日

2『天使の囀り』

著者:貴志祐介
出版社:角川書店
発売日:2000年12月8日

3『青の炎』

著者:貴志祐介
出版社:角川書店
発売日:2002年10月25日


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