芥川龍之介『蜘蛛の糸』あらすじをどう解釈する?感想&徹底解説!

芥川龍之介 蜘蛛の糸

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学校の教科書にも載っていて、教材としても使われる芥川龍之介の『蜘蛛の糸』です。
児童文学向けに書かれた短編の本作は、大正7年に書かれてから映画化、アニメ化からバレエ化までをはじめ、海外へも翻訳される人気作品です。
今回は、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』のあらすじや感想とともに、作中で問われた「救い」について紐解きます。

『蜘蛛の糸』作品詳細

著者:芥川龍之介
出版社:新潮社
発売日:1968年11月19日

概要

大正7年4月に鈴木三重吉により創刊された児童向け文芸雑誌『赤い鳥』創刊号に発表され 、大正8年に新潮社から出版された『傀儡師』に収録されました。

この話の材源は、ドイツ生まれのアメリカ作家で宗教研究者のポール・ケーラスが1894年に書いた『カルマ』(Karma:A Story of Early Buddhism)の鈴木大拙による日本語訳『因果の小車』であることが定説とされる。
生き物にとって「本当の救いとは何か?」ということをメインテーマにしている。

映画化などへの略歴

●『蜘蛛の糸』2011年
監督・脚本:秋原正俊
原作:芥川龍之介『蜘蛛の糸』、『煙草と悪魔』、『アグニの神』
主演:
・カンダタ:平幹二朗
・垣内総子、鬼:高畑こと美
・軍人:鳥肌実
・悪魔:松田洋治
・魔女:初嶺麿代

●アニメーション
・『まんが日本昔ばなし』で、大方のあらすじは同様のままアニメ化されている。
・『まんが赤い鳥のこころ』第9話でもアニメ化されている。
・『青い文学シリーズ』でも第11話にてアニメ化されているが、同じ芥川作品である『地獄変』とリンクされた内容になっている。

『蜘蛛の糸』の主な登場人物の名前一覧

●カンダタ(犍陀多)
罪人たちが苦しんでいる地獄に紛れ込んでいた男。
殺人・放火・泥棒という数々の悪事をなしてきた男だが、1つだけ善行をしていた。
それは林で小さな蜘蛛を踏み殺しかけてやめたこと。
その善行1つを釈迦に認められ、その地獄から1本の蜘蛛の糸によって救い出されようとする。

●御釈迦様
神様と同等の存在。
天上界から地獄と化した地上を見下ろしている。

●罪人
カンダタと一緒に地獄でうめいている、生前に数々の悪事をなしてきた人間たち。

引用元:wikipedia青空文庫


↓参考書籍↓

1『蜘蛛の糸・杜子春』

著者:芥川龍之介
出版社:新潮社
発売日:1968年11月19日

2『蜘蛛の糸』

著者:芥川龍之介
出版社:角川春樹事務所
発売日:2011年4月15日

3『改編 蜘蛛の糸・地獄変』

著者:芥川龍之介
出版社:角川書店
発売日:1989年4月1日

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【簡単】3分でわかる『蜘蛛の糸』のあらすじ

設定は天界と地上という神話じみたものだが、現実でもよく言われる「天国と地獄」がモチーフにされている。

ある日、御釈迦様が極楽を散歩中にふと地獄を覗いてみると、そこでカンダタという男がもがき苦しんでいるのを発見する。
そしてそのカンダタの生歴を振り返ってみると、1度だけ「蜘蛛を助けた」という善行を思い出す。

その善行1つをピックアップして御釈迦様は、このカンダタを地獄から救い上げようとして、蜘蛛の糸を1本、天界から地上に下ろす。

糸が下ろされた瞬間、カンダタをはじめ他の罪人たちもこぞって集まり始め、その「救いの糸」を奪い合ってしまう。
カンダタはこの罪人の中でもボス的存在であり、力があった。

なので他の罪人を蹴散らすように糸から遠ざけ、
「この糸は俺のものだ!下りろ!」
と自分と同じようにすがる罪人たちを糸から地上(地獄)に落とし始めた。

そうしているうちに糸が切れ、カンダタは他の罪人たちと一緒にまた地獄へ落ちてしまった。
その様子を見ていた御釈迦様は「自分だけ助かろうとしたカンダタ」を浅ましく思い、悲しそうな顔をして、地獄を覗ける蓮池から去ってしまった。


↓参考書籍↓

1『名作ドリル「トロッコ」「蜘蛛の糸」』

編集:認知工学
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
発売日:2007年9月13日

2『デキる大人は読んでいる 芥川龍之介 『羅生門』『蜘蛛の糸』他』

著者:芥川龍之介
出版社:ゴマブックス株式会社
発売日:2013年4月27日
フォーマット:Kindle版

3『読書感想文シリーズ 芥川龍之介「蜘蛛の糸」』

著者:芥川龍之介
編集:文学編集部
フォーマット:Kindle版

『蜘蛛の糸』の結末(ラストシーン)

カンダタは地獄で苦しんでいるうち御釈迦様より認められ、1本の蜘蛛の糸を「救いの糸」として投げ入れられます。
それにすがりつくように飛びつき、すぐさまその地獄から抜け出ようと必死にのぼっていきますが、ふと自分の足元を見ると、自分と同じようにして糸をのぼってくる他の罪人たちがいました。

カンダタは怒ったようにその罪人たちを振り払い、「お前たちは下りろ、糸にしがみつくな」と罵倒を繰り返します。

そうしているうち、カンダタや他の罪人たちの体動により糸は切れてしまいます。
カンダタの欲深さと無慈悲が糸が切った模様。

そしてカンダタは他の罪人もろとも、また地獄の淵へと真っ逆さまに落ちていきました。
この一部始終が、天上界では朝から昼までの短い時間での出来ごとにされている。

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【考察&解説】『蜘蛛の糸』で表現されたもの

ポイント1:本作で問われた「救い」とはどのようなものか?

●ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。(中略)やがて御釈迦様はその池のふちに御佇みになって、水の面を蔽っている蓮の葉の間から、ふと下の容子を御覧になりました。

人の日常でも「神様が見ておられる」という言葉はよく言うもの。
つまり本作でも、常に「自分の生き方というものは、神様に見られている」という設定を施しているとしてよい。

●三途の河や針の山の景色が、丁度覗き眼鏡を見るように、はっきりと見えるのでございます。

それでも「地獄というものは生き物の世界に確実にある」ということを仄めかし、人と地獄との密接な関係を表している。

●御釈迦様は地獄の容子を御覧になりながら、この犍陀多には蜘蛛を助けた事があるのを御思い出しになりました。そうしてそれだけの善い事をした報には、出来るなら、この男を地獄から救い出してやろうと御考えになりました。

「人は生まれながらにして罪人」といわれるものだが、それでも人は確実に善の行ないもする。
その善の行ないを貴重なものとして、それにより多くの罪をも取り除くことができると教えている。
「人にとって善行がいかに大事か」という主張に取れる。

●蜘蛛の糸の下の方には、数限りもない罪人たちが、自分ののぼった後をつけて、まるで蟻の行列のように、やはり上へ上へ一心によじのぼって来るではございませんか。

人は皆同じ、ということを説いている。

●犍陀多は大きな声を出して、「こら、罪人ども。この蜘蛛の糸は己おれのものだぞ。お前たちは一体誰に尋きいて、のぼって来た。下りろ。下りろ。」と喚わめきました。

罪人である人の欲深さの表現。

●その途端でございます。今まで何ともなかった蜘蛛の糸が、急に犍陀多のぶら下っている所から、ぷつりと音を立てて断れました。

欲深さをもって事をすると、決まって悪いことが起こるという教訓のようなもの。
「途端」と「今まで何ともなかった」というところが重点的。
それまで変わらず何人もの罪人がのぼっていた糸であるに関わらず、糸は何ともなかった(切れなかった)。
だけど、カンダタが欲を出して「自分だけが助かろう」とした瞬間に糸は切れた。
つまり、「欲を出して人を思いやらない」という点が、この糸が切れたきっかけとも取れる。

●御釈迦様は極楽の蓮池のふちに立って、この一部始終をじっと見ていらっしゃいましたが、やがて犍陀多が血の池の底へ石のように沈んでしまいますと、悲しそうな御顔をなさりながら、またぶらぶら御歩きになり始めました。

御釈迦様(神様)は、人の善行から欲深い点までの全てをご覧になっている。
そして欲深い人を悲しく思いながらも、その欲深な罪人を救おうとはしない。
救うに足る基準がはっきりしているようである。


この7点を見ていくと、おのず本作『蜘蛛の糸』が何を言わんとしているかがわかるように思います。
それはこの人間界でも始終言われていること―善人は天国へ行くことができ、罪人は地獄に落ちる―という教訓による説話。

御釈迦様はカンダタという大悪人にさえ目をかけ、「小さい蜘蛛を踏み潰さず、その蜘蛛の命を助けた」というたったそれだけのことをピックアップしてくれる包容力を持つが、それでも、「欲深さ」という罪を犯す人間には決して救いの手を伸べようとはしない。

つまり先述のように、慈悲の心があっても「罪は罪」とはっきりした線引きをする上で、救われる人・救われない人を振り分けている。
この点で、これまで人間界で伝承されてきた「天国と地獄」にまつわる神話や説話にリンクしていて、いえば現実味を帯びたストーリーになっている。

ポイント2:冒頭部と末尾の文

それから上記の7点にはあげませんでしたが、本作の冒頭部と末尾にある2点の箇所が、この『蜘蛛の糸』のもう1つの大きな主張になっているように思えます。

●極楽は丁度朝なのでございましょう。

●極楽ももう午ひるに近くなったのでございましょう。


この2点。
人間界(ここでは下界であり地獄である地上の意)では蜘蛛の糸・救いの糸を巡った壮絶なバトルが繰り返され、多くの人の言動や心の経過により幾日も経ったかのようだけれど、御釈迦様がいる天上界では「朝から昼まで」というごく短い時間の形容がされています。

この「たった数分、短い時間」といった形容の裏を返せば、それは「軽いもの」「大したことない」という意味合いにも見えてきます。

つまり、
人には重大・甚大なことだが、天上界にはべつに大したことない出来ごと
という風に取れるわけです。

このギャップにはどのような意味があるのか?

それは、天上界と下界(人の世界)とをきっちり分けた形容・表現ではないでしょうか?
いえば聖別されたように、天上界と下界を切り分けているのです。

なぜ切り分けるのか?

それは、御釈迦様・神様と人間とをきっちり分けるためです。
御釈迦様・神様にまつわる環境や出来ごとと、人間にまつわるそれらでさえ「全く異質のもの」という前提を敷き、その上で、人の世界は非常に汚れているが、天上界というものはその人間による汚さが全くない、非常に奇麗な世界なのだということをアピールしているのです。

そのように考えれば、本作『蜘蛛の糸』にもそれなりの解釈を得られるかも知れませんね。


↓参考書籍↓

1『芥川龍之介~蜘蛛の糸~』

著者:芥川龍之介
編集者:ゲキタン名作プロ
フォーマット:Kindle版

2『自分とは何か、芥川龍之介の世界』

著者:如月翔悟
フォーマット:Kindle版

3『国語の教科書から消えた 心に響く名作・名場面』

著者:小宮山博仁
出版社:日本文芸社
発売日:2013年5月30日

4『蜘蛛の糸・鼻・芋粥 (ホーム社漫画文庫)』

著者:芥川龍之介、日高トミ子
出版社:ホーム社
発売日:2010年8月10日

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『蜘蛛の糸』書評

【評価:4.0】

民話や伝承物に多く題材を得てきた芥川作品の中で、本作はそうした伝承作品から「人への教訓」を強烈に示した代表作と言えるでしょう。
恐らく「正義」というものを扱う上で、人にとって難しい問題である「善悪の判断基準」や、「罪の前に人はどうあるのか?」といった、恐らく生き物にとっての永遠のテーマを真っ向から扱っている点で、その難しさに配慮し、高評価にできるように思います。

まとめ&感想

一読するだけでは「善悪を扱ったような作品」で、半ば「勧善懲悪を含めたような、ありふれた作品」に映るかも知れませんが、その本意は、読めば読むほどの味わい深さと難解とを突きつけてくるように思います。

芥川作品の多くは、『今昔物語』に端を発しているとも言われますが、よくよく読めばそれだけではなく、他の数々の時代の名作に構成のベースを置いている「マルチな作品」とも読み取れます。

ただ本作『蜘蛛の糸』は短編ながら、ストーリーの骨子の部分だけを浮き立たせて描いているようで、作品としては「もう少し各キャラクターの前後の話を知りたい」という感想もあがります(この点で評価では少し減点しました)。

なんと言っても冒頭部と末尾の表現が秀逸で、この2点をもっての解釈が未だに得られていません。
公式の論評でも考察が分かれるところです。

読めば読むほど味が出る作品!
この冒頭部・末尾の難解な箇所を含めて、さらなる「新しい解釈」が得られるかも知れませんね。


↓さらなるおすすめ書籍↓

1『蜘蛛の糸』

著者:鎌田幸美
出版社:あおば出版
発売日:2005年8月16日

2『新装版文芸まんがシリーズ 芥川龍之介:地獄変・奉教人の死』

著者:芥川龍之介、古城武司、尾崎秀樹
出版社:ぎょうせい
発売日:2010年4月13日

3『くもの糸・杜子春(新装版)―芥川龍之介短編集―(講談社青い鳥文庫)』

著者:芥川龍之介
イラスト:百瀬義行
出版社:講談社
発売日:2007年11月29日


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