太宰治『トカトントン』3分で分かるあらすじと感想&徹底解説!

太宰治

太宰治の『トカトントン』。
初出は「群像」(昭和22年)で、その後も全集や文庫本等で掲載され続けた、太宰治による半ば滑稽譚じみた愉快な短編です。

主人公の青年は真面目なことに熱中しようとしますが、そのたびに「トカトントン」という軽妙な音が聞こえてきて、そのしていることに集中できなくなります。

今回は、太宰治の小説『トカトントン』の面白さについて解説してみます。

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『トカトントン』作品詳細

作品集『ヴィヨンの妻』収録作品。
著者:太宰治
出版社:新潮社
発売日:1950年12月22日

概要

太宰の本妻・美知子は本作について、
「昭和21年の秋頃、帰京を控へて、金木で書きました。金木で書いた最後の作品ではないかと思ひます。東京に帰つてから、M市居住のHといふ方が尋ねてこられたとき、あの人の手紙からヒントを得て、『トカトントン』を書いたのだと私に語りました」
と述べている。

「M市居住のHといふ方」とは、水戸市に住んでいた保知勇二郎のこと。
昭和21年7月頃、復員青年だった保知は疎開先の太宰にファンレターを何通も送っていた。
保知は太宰治全集の月報の中で「『トカトントン』のトンカチの音のことを、私は手紙の何通目かに書きました。
しかし太宰さんの創作とちがって、当時の私は幻聴に悩まされているとは書きませんでした」と述べている。

出版の経緯

初出:『群像』昭和22年1月号
単行本:『ヴィヨンの妻』(筑摩書房、昭和22年8月5日)
執筆時期:昭和21年11月上旬完成(推定)
原稿用紙:35枚
引用元:wikipedia

映画化・ドラマ化・オマージュ作品

現在のところ、本作からストレートに派生された作品は見つかりませんが、本作にも見られるような「音」を扱った作品の派生作は、『ヴィヨンの妻』や『斜陽』、また『人間失格』等の代表的な作品をはじめ、その作中の要所で面白味を引き出す小道具として扱われています。

その点から見れば、この「音」の効果をメインに取り上げ、パロディじみた作品に仕上げた本作の妙味・醍醐味というものは、その他の作品で取り上げられている描写技法のうちに「内在されている」と言ってよいかも知れません。

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作中に登場する主なキャラクターや小物、出来ごとの紹介

●私
26歳の青年で、生まれは青森市の寺町。
その町に「トモヤ」という花屋があり、そこで次男として誕生した。
青森の中学校を出てから横浜の或る軍需工場の事務員になるも、第二次世界大戦が終結するとともに、また生地へ帰ってくる。

それから後は、伯父が局長を務める郵便局で働く。
母親は、中学4年生のときに亡くなっている。

●「文体」
戦前から戦後にかけて、文体社から出版されていた随筆雑誌。
多くの作家が本誌において作品を発表していた。

●豊田
「私」と同郷の生まれで、同じ寺町に住んでいる。
戦争により、家が全焼した。

●太左衛門
呉服屋の主人。
先代と当代の2人が同じ名前でいるが、先代の太左衛門は太っており、当代の太左衛門はやせて粋な恰好なので、「私」はこの当代の太左衛門のことを「羽左衛門」と呼んでいる。

●無条件降伏
第二次世界大戦が終結するときにアメリカから出された訴状。
ポツダム宣言で有名。

●トカトントンの意味
兵舎から聞こえてくる、金づちで釘を打つ音。
はじめは「私」の憂鬱な気持ちをその剽軽な音で明るくしてくれたが、次第にその音が耳から離れなくなる。

●オネーギン
1825年から1832年にかけて執筆されたアレクサンドル・プーシキンによる韻文小説。
タチヤーナという美しい女性を巡り、エヴゲーニイ・オネーギンとヴラジーミル・レンスキーという若い青年が決闘することになり、結局エヴゲーニイがヴラジーミルを殺害してしまうというストーリー。

●ゴーゴリ
本名はニコライ・ヴァシーリエヴィチ・ゴーゴリ。
1809年生まれで、ウクライナ生まれのロシア帝国の小説家、劇作家として活躍する。

●セザンヌ
本名はポール・セザンヌ。
1839年生まれのフランスの画家。
当初はクロード・モネやピエール=オーギュスト・ルノワールらとともに印象派のグループの一員として活動していた。

●モネー
本名はクロード・モネ。
1840年生まれで、印象派を代表するフランスの画家。
美術における印象派、現代美術、写実主義に影響を与えた。

●ゴーギャン
本名はポール・ゴーギャン。
1848年生まれで、フランスのポスト印象派の画家。
ポスト印象派、印象派、現代美術、プリミティヴィスム、綜合主義、象徴主義など、数多くのアートイムズが流行った中で活躍した。

●伯父(おじ)
「私」の傍系3親等にあたる父親。
「私」はこの伯父のところで居候しており、伯父からいろいろと世話をしてもらっている。
「私」が働く郵便局の局長。

●時田花江
「私」が片思いをした、旅館の女性。
ちょくちょく「私」が働く郵便局へやってきて、貯金をしている。
この女中に恋をした頃から、「私」は音楽に親しみを持つようになり、あの「トカトントン」の音も、鮮明に聞こえるようになってしまう。

●政治運動
この頃の政治運動は、アメリカの民主主義に次第になりかわってゆく日本の世情に対し、もとよりあった社会主義や軍国主義、また国粋主義に傾倒していた若者などが、強くその民主主義に反発する運動を指している。

●イエス
イエス・キリストのこと。
紀元前6年から紀元前4年頃に実在したユダヤの人物。
一般にキリスト教において、ナザレのイエスをイエス・キリストと呼んでいる。

●マタイ
マタイによる福音書の意味で、新約聖書に収められた4つの福音書のうちの1つ。


↓参考書籍↓

1『探偵太宰治』

著者:上野歩
出版社:文芸社
発売日:2017年7月15日

2『戦後史の正体』

著者:孫崎享
出版社:創元社
発売日:2012年7月24日

3『太宰治大全』

著者:太宰治
出版社:古典教養文庫
発売日:2014年1月1日
フォーマット:Kindle版

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【簡単】3分でわかる『トカトントン』のあらすじ

ストーリーの運びは、手紙の口調で始まり、最後までその調子をもって誰かに伝えようとする文体です。
時代背景は、第二次世界大戦が終わった戦後。

「私」は青森市の寺町で生まれ、中学校を卒業後、戦後の横浜にある軍需工場で働き、その後は一度青森に帰り、次は軍需工場から比較的近い郵便局で働き始める。
「私」の居候先は、その郵便局で局長を務める伯父の家。

その新しい勤め先で沢山の人たちと触れ合ううちに、時田花江という女性に恋をして、戦後の何もない状況の中、その恋心に「私」はしばらく浸ってしまう。

ポツダム宣言が受諾され、当時の軍国主義はすぐにアメリカの民主主義になりかわる中、多くの若者が政治運動へ明け暮れていき、「私」もその影響を少なからず受けつつ、もとより嗜好していた小説への道に精進していく。

昔に流行った絵画・美術のいろいろな主義(イズム)やその変遷に注目し、日本の世情に物申したい気分に段々なっていく。

そんなとき、兵舎から聞こえてきた「トカトントン」という音に「私」はしばらく傾聴し、その後もその「トカトントン」の音がことある毎に聞こえ始め、何でもないときにでもその音が心の中や耳にこびりついてしまう。

恋をしながらトカトントン、政治運動を考えながらトカトントン、局で働きながらトカトントン、伯父の相手をしながらトカトントン、お酒を飲みながらもトカトントン…、どんなときでもこの「トカトントン」の音が聞こえてきて、何もかもに熱中できない状態になってしまう。

やがて「私」はこの「トカトントン」の音に半ばノイローゼ気味になってしまい、そんなとき、「このノイローゼから救い得るものは聖書の言葉だけだ」とキリスト教の教えに注目する。


↓参考書籍↓

1『音と振動の科学』

著者:山田伸志
出版社:日刊工業新聞社
発売日:2015年1月28日

2『回想の太宰治』

著者:津島美知子
出版社:講談社
発売日:2008年3月10日

3『太宰治の辞書』

著者:北村薫
出版社:新潮社
発売日:2015年3月31日

『トカトントン』の面白さはどこからくるのか?

本作の構成ベースはまず「手紙の口調」、すなわち相手に伝えるという伝書の形を取っています。
この場合「伝える相手」というのはもちろん読者。

この時点ですでに読者は、本作のペースにハマりやすくなっています。
「自分に語られている」というような、隠れたフレームに入れられているわけです。
つまり「感情移入しやすくなる」ということす。

この「隠れた効果」をもってさらに本作は、「音」が人に伝える「不思議なリズム」を扱っています。

皆さんも、たとえば勉強をしていたり試験を受けているとき、全然関係のない音が急に頭の中で鳴り響いたり、忘れられなくなったりするという、やや不思議な体験をしたことはありませんか?

この「音」というのは、たいていそれまでに聞きかじった何でもない音なのですが、それがどうも知らないうちに心が気に入ってしまい、何か真剣なこと・真面目なことをしているときにでも、そのことと無関係に心の中や頭の中にもたらされるという半ばノイローゼ気味な経験を作り上げます。

どんなときにでも無関係に飛び込んでくる「忘れられない音」、つまりこれが本作の面白さを引き出すベースになっているのでしょう。

この「忘れられない音」を上手く利用して、戦後における極度の真面目を匂わす思想や運動、あるいは普通に通勤している社員の光景や、恋をしている男の心情にも影響させて、物語の冒頭から末尾までをまるで滑稽譚に仕上げることで、それこそ「忘れられないお話」にしてしまっているわけです。

太宰作品のうちには、よくこの「音」や言葉のリズムという、読んでいて何か引っかかるような形容が多く取られています。

たとえば『畜犬談』という作品では「わん」という犬の鳴き声にはじまり、「三七、二十一日間」という九九をもじった言葉のリズムが多用され、また『灯籠』という作品でも「二十四年間」という年数を伝える文言をしつこく伝えながら、真面目な主人公の苦悩を描くという滑稽譚の調子を真似ています。

この「音」の利用に加え、これも太宰作品に多く見られる形容なのですが、「真面目が過ぎて滑稽になる」といった、自然の真面目さ加減から面白さを引き出す表裏的な技法も活用しています。

本作『トカトントン』の主人公は至って真面目であり、また戦後を時代背景に敷いていることで、その周りで動くキャラクターや出来ごとも殊に真面目であり、皆「お堅い表情」を連続して映し出しています。
この設定が構成に組まれている点がミソです。

この設定・構成により、「真面目な背景」の中で「トカトントン」の音を多用して、またその音の響きから「真面目なことがら」さえ面白く変えてしまうという、いえば風刺をもじった漫才のようなパフォーマンスが冴えてきます。

また実は、この「風刺・真面目な世情を皮肉って面白さを引き出す手法」というのは、結構多くのコメディアンが利用しているものなのです。

新しくは吉本新喜劇で見られるような「真面目なストーリー展開の中での調子外れ」に窺われ、またとんねるずやドリフターズなどのコントにも沢山見られる「一般の出来ごとの中に面白さやボケを入れて作る、世情への風刺コント」など、またもっと古くは、チャップリンやモンティパイソンなどの時代喜劇に見られるような、これもブラックユーモアを豊富に含めたコントの類…、これらのコントのたいていは「真面目の中に滑稽を絡めることで、調子外れや風刺を表現して楽しませる手法」に基づいています。

つまり、この『トカトントン』に見られる面白さも、

真面目で普通の日常風景や情景に、「トカトントン」という軽妙な音を滑稽の元として入れることで、その真面目さ加減を面白さに変えてしまう「真面目の延長にある面白さ」

からきていると考えられます。

さらには「共感」からくる面白さもあります。

誰でもたいてい一度はこの「忘れられない音」への執着からくるような、真面目な場面にさえ滑稽をもたらしてくる「調子外れな面白さ」を経験したことがあるように思います。

その辺りを描くことで、「ああ、あるある」、「僕/私もこんな経験したことあるわ」といった「共感」から引き出される面白味を味わえるのです。
いわゆる「あるある」の面白さです。

この「行き過ぎた真面目から引き出される面白さ」と、「共感から得られる面白味」とが、本作『トカトントン』の滑稽を表す、強い引き金になっているのではないでしょうか。


↓参考書籍↓

1『音楽を考える人のための基本文献34』

著者:椎名亮輔、筒井はるか(他)
出版社:アルテスパブリッシング
発売日:2017年5月26日

2『よくわかる音楽理論の教科書』

著者:秋山公良
出版社:ヤマハミュージックメディア
発売日:2014年7月22日

3『辻音楽師の唄―もう一つの太宰治伝』

著者:長部日出雄
出版社:文藝春秋
発売日:2003年5月

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『トカトントン』書評

【評価:4.5】

入りからとても読みやすく、また共感を含めた文体がきれいに並んでいるので、読書感想文を書くのでもシックリくる作品の1つでしょう。

わかりやすい上に面白さがあり、太宰文学によく見られる「感情移入させられやすい手法」が本作でも満載気味に取られているので、最初から最後まで楽しめる一作です。

まだ『トカトントン』を知らないという人には、ぜひ読んで頂きたいです。
時代設定は戦後ですが、その戦後の局面でも非常に面白く読めるので、また違った形で戦後の知識も入ることと思われます。
「読みやすい」「共感」「面白さ」この3つをもって高評価です。

まとめ&感想

私は太宰作品に傾倒し始めてだいぶ経ってから本作を知りましたが、『畜犬談』にも負けず劣らずの「無鉄砲な面白さが充満しているなぁ」と痛感させられた次第です。

太宰作のユーモアは、いわゆるブラックユーモアとは少し違い、なんだかほんわりしたような、あたたかさのある「滑稽激」のような気がします。
この点で読者は共感を覚えさせられ、読了後も「もっと読みたい」「この作品世界からまだ離れたくない」などの、淡く切ない感情を覚えさせられるのではないでしょうか。

『トカトントン』もそうですが、太宰作品にはかなり多くの「戦後をベースにした作品」があります。
この戦後の人の揺れ動きから史実に見られる歴史的な事変の数々が、太宰特有のユーモア調の描写により、さらに魅力的に伝わってきます。

作品世界を堪能しながら、その背景や設定に敷かれた史実さえも楽しませてもらえる太宰作の魅力を、ぜひ多くの人に味わって頂きたいものです。


↓さらなるおすすめ書籍↓

1『朝日新聞が報じた太宰治 入水死の第一報からその後の再評価まで』

著者:朝日新聞
出版社:朝日新聞社
発売日:2017年6月10日

2『山梨 太宰治の記憶』

著者:相原千里
出版社:山梨ふるさと文庫
発売日:2017年7月24日

3『太宰治研究25』

編集:山内祥史
出版社:和泉書院
発売日:2017年6月19日

4『太宰治ブームの系譜』

著者:滝口明祥
出版社:ひつじ書房
発売日:2016年6月8日

5『もっと太宰治(太宰治がわかる本)』

著者:太宰治倶楽部
出版社:ロングセラーズ
発売日:2015年8月3日

【参考用動画】
〈朗読カフェSTUDIO山口雄介朗読「トカトントン」太宰治〉

地点『トカトントンと』(原作/太宰治) 演出・三浦基が語る新作説明会
【朗読ラジオ】太宰治『たずねびと』(朗読:wis)dazai osamu


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