ホラー小説といえば鈴木光司や貴志祐介、また京極夏彦や綾辻行人などが有名で、またその近接ジャンルのサスペンス・ミステリーものでは江戸川乱歩や横溝正史をはじめ、松本清張や西村京太郎、山村美紗などを思い浮かべる人は多いでしょう。
海外に目を向ければ18世紀にゴシックホラー小説が誕生し、その後19世紀・20世紀を経て、現代に通じる“幻想を含めた怪奇・ホラーミステリー”が成立しました。
けれど現代までを俯瞰してみると有名な作品ばかりではなく、あまり知られていない「掘り出し物的なホラー小説」も他に数多くあります。
今回は有名どころのホラー小説から“掘り出し物的なホラー小説”までを、ランキング形式で一挙公開したいと思います。
私的感想を添えながらなるべく客観的に評価して並べてみます。
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【入門編】ホラー小説のおすすめ人気作品ランキング第20位~第16位
20位. 黒面の狐
作家名:三津田信三
出版社:文藝春秋
発売日:2016年9月13日
『文藝春秋』から書き下ろしで発表された単発型の作品で、ややオカルト系に偏った“呪術的…”に彩られる幻惑のストーリー。
舞台は戦後まもなく始まった大量生産にさしかかる頃、主人公・物理波矢多(もとろい・はやた)は満州の大学から返って早々北九州に赴き、炭鉱夫になって働きます。
物理と同僚の合里隆一が湾艦事故に遭ったことを皮切りに、他の炭鉱夫も次々と坑道で怪死事件に見舞われていきます。
その連続する変死事件に不審を抱いた物理はあるとき、彼らが死んだ坑道の奥で“黒い狐の仮面をかぶった人影”を目撃します。
それから物語は急ピッチに展開してゆき、「どんでん返し」が重なる未到の結末へ沈んでいきます。
三津田作品に多く見られる“ややオカルトチック”な展開で、描写は丁寧ながらも経過を伴う結末までのバランスには、多角的な視点から織りなされた樞(しかけ)が挿入されていて、確かな読み応えがあると思います。
しかし難点をいえば、“怪奇”を演出する場面に多少の無理があるように窺われ、読了後の後味は人によって分かれるかも知れません。
文章表現や人物・背景描写は非常に丁寧なので、さらっと読める作品です。
気晴らしに読むのに適した一作でしょう。
19位 エス
作家名:鈴木光司
出版社:角川書店
発売日:2013年5月25日
『リング』シリーズの1作品で、『バースデイ』から13年ぶりに発表された後続作品。
一応の『リング』シリーズ完結版・『ループ』の時間設定から半ば枠小説的な体裁を取って描かれた、入れ子式の脚色が加味されている。
『リング』シリーズを一通り読んだ人には本作へのイメージは容易く湧くでしょうが、初めて読む人には少し解釈が難しいかも知れません。
まるでヒロイン役ともなった山村貞子の描写よりも、その周りで動く関連人物への脚色効果が散在しており、「なぜそうなるの?」といった細かな疑問がふつふつ湧くように思います。
本作を読む前に『リング』シリーズのどれでもよいので1作を取り上げ、読んでおくことをおすすめします。
内容はそれまでと変わらず緻密な描写・しっかりまとめられた背景構成なので、読み応えは充分にあります。
18位 黒い家
作家名:貴志祐介
出版社:角川書店
発売日:1998年12月10日
ちょうど1998年7月に起きた和歌山毒物カレー事件の内容と本作の描写が酷似していることで話題になり、保険会社を扱ったサイコミステリアス・ホラーの仕上がりは、現代をもって至高の一品と言われています。
映画化・漫画化もされており、貴志祐介氏の事実上のデビュー作ともされました。
ある日、保険会社に勤める主人公・若槻のもとに菰田重徳と名乗る一人の男が現われ、保険金受理の相談をする。
それから手続きを進めるうちその男の妻である菰田幸子の存在が明らかとなり、若槻はその夫婦間に納得できない謎のようなものを感じる。
一度その“謎”を感じると、五月雨式に謎が謎を呼ぶようになり、心理学助手をしていた恋人・恵とともに若槻は、その夫婦間に秘められる悍ましい恐怖に呑まれてゆく。
描写・展開が非常に巧く、ここまで臨場感を醸し出せる小説はなかなか無いといってよいほど、その恐怖の戦慄は明らかに斬新です。
ストーリーに強弱をつけることによって恐怖の浮沈を味わわせる“すごみ”は、恐らくたいていの読者を呑み込むでしょう。
読了後、私は“まるで自分の部屋のクローゼットか押入れの中に、あの菰田幸子が隠れているんじゃないか?!”などとうなされるほどの恐怖を覚えたほどです。
もっと上位につけたかったのですがあまりに有名なため、この位置につけています。
400ページ近い長編の作品ですが、その筆勢と描写・展開の巧さによって恐らく一気に読まされることでしょう。
ホラー小説の金字塔とも言われる本作を、ぜひ一度、読んでみて下さい。
17位 鍵のかかった部屋
作家名:貴志祐介
出版社:角川書店
発売日:2012年4月25日
『防犯探偵・榎本シリーズ』の第3作目に当たる推理ホラー。
構成は「佇む男」、「鍵のかかった部屋」、「歪んだ箱」、「密室劇場」の4編からなります。
推理系の要素を含んだ本作は、ミステリー的な脚色から次第にホラー要素を含んだ作品とされ、現在ではホラージャンルに分類される場合が多い異質の作品。
『防犯探偵・榎本シリーズ』のタイトルでドラマ化もされています。
泥棒稼業をしていた会田愛一郎は5年の刑期を終えて出所後、亡き姉の実家を訪れる。
そこで姉の息子の大樹が自分の鍵のかかった自室で練炭自殺している現場に遭遇する。
状況から自殺と断定されるが、状況の細微に目を配った会田は特定の疑念を抱き、密室に敷かれたトリックの謎を解明してゆく。
「佇む男」もそうですが、「自殺と断定された事件」への再調査からストーリーが始まる設定で、後手に回る経過において「?」を思わせる真相への謎解きが、非常に活き活きしてくる作品です。
描写や設定が丁寧でしっかりしており読みやすく、何といっても後味がかなりよい作品です。
推理とホラーの両方を楽しみたい人におすすめします。
16位 夜叉ヶ池
作家名:泉鏡花
出版社:岩波書店
発売日:1984年4月16日
『演芸倶楽部』(大正2年)に発表された戯曲形式の作品で、半ば民話的要素を含めた回顧譚的な脚色構成の仕上がり。
テーマには「龍神伝説」を絡めた民俗伝承を差し入れ、その背景にはゲアハルト・ハウプトマンの『沈鐘』(1897年)の舞台設定が組み込まれている。
ある干ばつ続きの夏の日に、僧侶ながら学者もしている一人の男が岐阜県・福井県の県境にある琴弾谷にやって来て、そこで伝わる様々な民族伝承に興味を持ち始める。
その伝承のうちに夜叉ヶ池という“龍神が住む池”の存在を知り、今度は“雨乞い”をするため、龍神にまつわるいろいろな伝説を聞き始めてゆく。
主に会話体なので、その内容は掴みづらいかも知れません。
童話を読むように読めばある程度はすらすら読めるかも知れませんが、それでも文脈を繋ぎ合わせて背景を得るまでには、じっくりと腰を据えて読む必要があります。
表現や言葉の言い回しは実に丁寧ですが、口語体や旧遣いがやはり目立つため、少なからず予備知識も必要になるでしょうか。
ゆっくりじっくり読むことをおすすめします。
鏡花の数ある「怪奇譚」の内で、本作はその読了後に空想や感想をより膨らませてくれる一品です。
現代ではあまり見られなくなった「民族伝承」が要所で挿話として語られ、なにかレトロ感に浸れる重厚なテーマを垣間見ることでしょう。
【中級編】ホラー小説のおすすめ人気作品ランキング第15位~第11位
15位 人間椅子
作家名:江戸川乱歩
出版社:講談社
発売日:1979年3月20日
『苦楽』(大正14年)に初出が掲載された、乱歩独自の奇譚では『屋根裏の散歩者』や『心理試験』と同時期に発表された推理ホラーの結晶的作品。
サイコチックな仕上がりで、その出来栄えは推理というより人間の内向的心理を揺さぶる恐怖譚で成立しています。
外交官の夫を持つ女流作家の佳子は、執筆前にファンレターを読むことを日課にしており、そのファンレターにある日、「私」から送られてきた一通が混ざっていました。
佳子はそれに目を止めます。
その内容は「私」の過去の罪についての告白であり、椅子職人でありながらその椅子に細工を施して「その椅子の内側に自分が入り、ずっとその椅子に座る女性の感触を味わった」という、半ば破廉恥なものでした。
そしてその内容を読み終えた佳子は、自分がいま座っている椅子に違和感を覚え始めます。
乱歩お得意の臨場描写に冴えわたり、読みながらゾクゾクっとくる、まるで目前でその場面が繰り広げられているかのようなとてもリアルな感触を味わえます。
本作も非常に描写の運びが巧く、その筆致はたいていの読者に魅力と恐怖を与えることでしょう。
短編なので読みやすいです。
ぜひ一度手に取って、「突然来る恐怖」を味わってみて下さい。
14位 死と影
作家名:坂口安吾
出版社:筑摩書房
発売日:1991年5月28日
『文学界』(昭和23年)に掲載された評論系の短編で、安吾にしては珍しい“ホラー調”に脚色された幻想譚。
日常の描写から埋没してゆく固有の幻想から、人が死に対して本能的に描く恐怖のあり方を如実に描き出しています。
描写や形容を見ていると非常に現実に即した内容に窺えますが、その主張の奥深くには「人が死ぬことに対する異様な空想」が大胆に浮き彫られてあり、日常からピックアップされた人間模様には特定の“死臭のようなもの”が置かれています。
ホラー小説といえば「それなりのタイトル」に脚色された“いかにも的な作品”が多いですが、その“いかにも的な作品”以外にホラーを盛り込んだ作品も、実に多くの作家によって描かれています。
純文学や大衆小説にも「隠し味」のように混在しているその「ホラー要素」を、どうぞあなたの目で確認し、実感してみて下さい。
安吾作品ですので文章表現は平易なもので、短時間で読了になると思います。
ですが、できれば三度ほど再読して頂き、1センテンスごとの解釈を充分に堪能して読むことをおすすめします。
13位 鬼談
作家名:京極夏彦
出版社:角川書店
発売日:2015年4月4日
「愛、絆、情―すなわち執着は、人を鬼と成す。
人は人を慈しみ、嫉妬し、畏れをいだく」この冒頭句を念頭に敷き、九篇からなる“幻想と回顧を織り交ぜて、人の内向をえぐり出す”ホラー小説。
人の生死を軸にした一定のストーリー設定が敷かれていますが、描写の本意はむしろ人が生き抜くための本能の描写をメインにしており、以前に流行った「言霊」がなす現実への影響を、如実に作中世界で再現しています。
『百鬼夜行シリーズ』や『江戸怪談シリーズ』などに見られる言葉(とくに呪詞)の効力をピックアップし、人の内側に渦巻く鬼の情念を赤裸々に告白した半ば実験的小説にも見て取れます。
テーマの設定上、どうしても伝説やオカルトチックな描写が多いですが、その訴えるところは全ての人に共通する「感情の抽出描写」に終始しています。
その魅力にハマれば「傑作」と言えてしまう一作かも知れません。
12位 霊感!
作家名:夢野久作
出版社:筑摩書房
発売日:1992年8月24日
『猟奇』(昭和6年)に初出が掲載され、夢野文学においては初期頃から多く見られた“幻想と現実”が織り交ぜられるややオカルト調に仕上げられた短編小説。
顎の外れた患者が「ドクトル、オルデスオル、パーポン」と名乗る医師のもとに来て治療を頼みますが、どうもその患者の様子にはこの世の者ではないような、青白い生気に彩られた異形が表れている。
謎が怪奇を呼ぶ展開で、果してこの患者の身元はいったい人間なのか…?
夢野らしい幻想風味が満載した作品で、サタンやメデュサといったオカルト・神話チックな描写が活きています。
また特有の奇怪な発音・擬音が多く盛り込まれており、内容全体を実にリアルに洗練しています。
ややコメディチックな描写も見ものです。
夢野作品にしては比較的読みやすく、また構成やテーマもわかりやすいので、ぜひ夢野作品の怪奇譚を知らない人は手始めに読んでみるとよいかも知れません。
11位 夜は一緒に散歩しよ
作家名:黒史郎
出版社:メディアファクトリー
発売日:2007年5月16日
都会の闇に確かに潜む影が、幼い娘を恐怖の深淵に誘ってゆく。
黒史郎の渾身のデビュー作である本作は、第1回『幽-怪談文学賞を受賞。
作家・横田卓郎の一人娘である千秋は、母親が死んでから“奇妙な絵”を描き始める。
その絵は異形の生き物で、次第に感情が揺れ始めた千秋はその絵に母親の残像を追い駆け、さらに絵を描くことと、夜の散歩に没頭していきます。
テーマは親を亡くしたことから表れる幼い子供の心理の変調にあり、その経過が奇妙な言動をもたらすというありふれたもの。
ですが、その辺りを実にリアルなタッチで描くその信憑性は、まるで気迫が籠った芯に迫る奇怪を浮き彫りにしています。
わかりやすい設定と脚色なので、恐らく誰でも食いつきやすい仕上がりになっています。
ホラー小説初心者向けの作品でもありますので、これも手始めに読んでみることをおすすめします。
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