夏目漱石『吾輩は猫である』3分で分かるあらすじと感想&徹底解説!

夏目漱石の処女長編である本作は、『ホトトギス』(明治38年)に初出が発表されて以来、これまで多くの人に愛されてきました。教科書にも載るほど。
映画化・ドラマ化・漫画化・アニメ化までなされている不朽の名作。

今回は夏目漱石の小説『吾輩は猫である』のあらすじと感想を語りながら、「なぜ主人公を猫にしたのか?」について紐解きます。

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『吾輩は猫である』作品詳細

著者:夏目漱石
出版社:宝島社
発売日:2016年6月24日

概要

漱石が所属していた俳句雑誌『ホトトギス』では、小説も盛んになり、高浜虚子や伊藤左千夫らが作品を書いていた。
こうした中で虚子に勧められて漱石も小説を書くことになった。
それが1905年1月に発表した『吾輩は猫である』で、当初は最初に発表した第1回のみの、読み切り作品であった。

映画化から漫画化までの略歴

〈映画化〉
2度映画化された。1936年版と1975年版がある。
●1936年版
P.C.L.映画製作所(現在の東宝)制作(87分)。
監督:山本嘉次郎。主演:丸山定夫、徳川夢声。
●1975年版
芸苑社制作(116分)。
監督:市川崑。主演:仲代達矢、波乃久里子。

〈ドラマ化〉
●山一名作劇場『吾輩は猫である』(日本テレビ、1958年)
演出:安藤勇二
脚本:田村幸二
●『吾輩は猫である』(NHK、1963年)
脚本:キノトール
主演:森繁久彌、淡路恵子
●『ふたりは夫婦』第19回「わたくしは細君」~「吾輩は猫である」より~(フジテレビ、1975年)
脚本:田中澄江
出演:八千草薫、長門裕之

〈テレビアニメ化〉
●日生ファミリースペシャル『吾輩は猫である』(フジテレビ系、1982年)
制作:フジテレビ、東映動画
製作:今田智憲
キャラクターデザイン:はるき悦巳(猫)
出演者:我輩(山口良一)、クロ(なべおさみ)他

〈漫画化〉
『吾輩は猫である』夏目漱石作・尾崎秀樹 監修・緒方都幸 漫画、旺文社〈旺文社名作まんがシリーズ A1〉、1985年。

〈その他:オペラ化〉
オペラ『吾輩は猫である』- 曲・台本:林光(1998年2月21日初演/新国立劇場小劇場/こんにゃく座)

『吾輩は猫である』の主な登場人物の名前一覧

吾輩(主人公の猫)
珍野家で飼われている雄猫。本編の語り手。
「吾輩」は一人称であり、彼自身に名前はない。
人間の生態を鋭く観察したり、猫ながら古今東西の文芸に通じており哲学的な思索にふけったりする。
人間の内心を読むこともできる。

三毛子
隣宅に住む二絃琴の御師匠さんの家の雌猫。
「吾輩」を「先生」と呼ぶ。
猫のガールフレンドだったが風邪をこじらせて死んでしまった(第二話)。
「吾輩」が自分を好いていることに気付いていない。

車屋の黒
大柄な雄の黒猫。
べらんめえ調で教養がなく、大変な乱暴者なので「吾輩」は恐れている。
しかし、魚屋に天秤棒で殴られて足が不自由になる(第一話)。

珍野苦沙弥(ちんのくしゃみ)
猫「吾輩」の飼い主で、文明中学校の英語教師(リーダー専門)。
父は場末の名主で(第九話)、その一家は真宗(第四話)。
年齢は、学校を卒業して9年目か(第五話)、また「三十面(づら)下げて」と言われる(第四話)。
妻と3人の娘がいる。偏屈な性格で、胃が弱く、ノイローゼ気味である。

迷亭(めいてい)
苦沙弥の友人の美学者。
ホラ話で人をかついで楽しむのが趣味の粋人(美学者大塚保治がモデルともいわれるが漱石は否定したという。

水島寒月(みずしまかんげつ)
苦沙弥の元教え子の理学士で、苦沙弥を「先生」とよぶ。
なかなかの好男子(寺田寅彦がモデルといわれる)。

越智東風(おちとうふう)
新体詩人で、寒月の友人。
「おち こち」と自称している。故郷は鰹節の名産地。

八木独仙(やぎどくせん)
哲学者。
長い顔にヤギのような髭を生やし、深遠な警句を語る。
40歳前後。

金田(かねだ)
近所の実業家。苦沙弥に嫌われている。
苦沙弥をなんとかして凹ませてやろうと嫌がらせをする。

珍野夫人
珍野苦沙弥の細君。英語や小難しい話はほとんど通じない。
頭にハゲがあり、身長は低い(第四話)。

泥棒陰士
水島寒月と酷似する容貌の窃盗犯。
長身で、26、7歳。喫煙者。

八(や)っちゃん
車屋の子供。苦沙弥先生が怒る度泣くという嫌がらせを金田から依頼された。

引用元:wikipedia

【簡単】3分でわかる『吾輩は猫である』のあらすじ

中学校で教師をしている珍野苦沙弥に拾われた猫は自分を「吾輩」と語り、その後から猫の世界に生きる自分の主観で、人間界を眺めていく。
そしていろんな感想を持ちながら、人間の優秀な点と愚かな点とを暴露していく。
それでも展開は非常に穏やか。

猫である自分も人間の真似をして、まるで猫が人間界に溶け込んでいこうと挑戦をする。
吾輩はその上で人間の言動を真似してみたり、人間が持ち合わせてきた文化・文明を理解しようと、数々の趣味を持ち、できるだけ人間(とくに飼い主の珍野苦沙弥)の考え方や見方を自分のものにしようと訓練をする。

だけれど猫の自分にはなかなかその行為が至難で、ついには葛藤を覚えながら、「人間界」と「自分の世界」とを確立した形で今度は人間界を俯瞰する姿勢を取っていく。
この辺りがとてもユーモラスな仕上がりで、とくに吾輩の珍妙な人間界の捉え方と口調が面白い。

そしてついには、人間になれないと悟った吾輩は猫として、人間界でのいろいろな楽しみを見つけようとしていく。

【猫を主人公に仕立てた「吾輩」が持つ影響とは?】
猫と人間の違いを踏まえた上で、より「人間界を客観視できる存在」を人間とは別の動物に捉えて描写した傾向が窺われ、その猫に「吾輩」と名乗らせることで、さらにその「人間界を客観視する存在」にそれなりの地位と権威を持たせた狙いが見られる。


↓参考書籍↓
①『吾輩は猫である』殺人事件』

著者:奥泉光
出版社:河出書房新社
発売日:2016年4月5日

『吾輩は猫である』の結末(ラストシーン)

吾輩ははじめ人間の風習や生活から距離を置いていますが、そのうちにそれらを受容し始め、人間が持つあらゆる楽しみを自ら味わうようになります。
そして人間が実に美味そうに飲むビールに目を留め、そのビールを「自分の景気づけに…」と三口ほど味わいます(猫にしてはこれで多量です)。

ビールを飲んで、また自分の生活へ戻ろうとするとき、つい体動を誤って想定外の水瓶の中へと落ち込んでしまいます。
その水瓶の中で最初もがきますが、何度もがいても出られないので、そのうち「足掻いても無駄だ」と抵抗するのをあきらめます。
そして人間が言うように「南無阿弥陀仏」を二度ほど繰り返して呟き、「我は死ぬ」と潔く水瓶の中で死んでしまいます。

【考察・解説】『吾輩は猫である』なぜ主人公を猫にしたのか?

「吾輩」が持つ影響力を考えるとき、先述しましたが、「人間界をさらに客観的視点を持つ存在」を立て、そのキャラクターに思想や主観を持たせていろいろなセリフを言わせることで、その人間界の様子を探らせることに絶大な効果をもたらすことが可能になります。

おそらく本作を執筆するに当たり、猫という主人公に思想や主観、また人間のような感情を持たせることで、さらに人間界の実情を探らせるという特殊な方法が編み出されたのでしょう。

●「吾輩は猫である。名前はまだ無い。」

冒頭のこの箇所では、名前が個人を割り当てるキーワードのようなものになっているとする場合、その「名前」が無いことにより人間界では存在があやふやなものになり、人間界にはまだ属していないような「得体の知れない存在」をキープしています。

つまり、より「人間界を客観的視点により眺められる存在」をピックアップした形になります。
この冒頭箇所からすぐ後述の「どこで生れたかとんと見当がつかぬ」という表記もこれへの後押しになります。

●「大事件のあった翌日、吾輩はちょっと散歩がしたくなったから表へ出た。すると向う横町へ曲がろうと云う角で金田の旦那と鈴木の藤さんがしきりに立ちながら話をしている。」

本作では数々の「事件」というか出来ごとが発生します。
この出来ごとを猫である吾輩は、猫の主観・視点・捉え方をもって、いろいろな空想を持ちながら眺めていきます。眺めたあとで自分なりの思惑を、その出来ごとの痕跡を辿る形で補強します。

そしてこの「数々の出来ごと」に関わる幾多の人間が、とても小さなことで悩んでいたり、あるいは重要な物ごとを無視していたりする愚かさを、ことに吾輩はピックアップして暴露します。
当然「人間の善し悪し」を含めて眺めているわけですが、どうしても吾輩には「人間の愚かさや欲深さ」の方が目立つわけです。
本作後述にある「日本の人間は猫ほどの気概もないと見える。情なさけない事だ。」の場面に、吾輩が人間を軽視する珍味が満載しています。

けれど吾輩は猫でありながら、それでも日本に住む人間に愛着を湧かせ、なるべく自分も、人間が繰り広げる文化や生活に慣れ親しもうとする努力をします。

●「吾輩も日本の猫だから多少の愛国心はある。」

このセリフを皮切りにして、心の中では人間を「愚かだ」や「情けない」と揶揄しながらも、人間の性善や地道に生きる生活の姿、そして共存に伴うさまざまな知恵というものに、それなりの感慨を受けとめます。

そして「人間も人間として猫より尊敬を受けてよろしい」などと少々高みに立った物言いをしながらも、吾輩は「人間が自分の立場を自覚すること」を条件に、「人間というものは自分が頼りにしてもよい崇高な存在であること」を肯定していきます。

つまりここで「人間界」と「猫の世界」とを分けた(確立した)上で、「人間には人間なりの尊重されるべき点」があることを述べています。

●「三平君のビールでも飲んでちと景気をつけてやろう。」&「吾輩は大きな甕かめの中に落ちている。」

そしてラストシーン。
吾輩は水瓶の中に誤って落ち、そこで死んでしまいます。
「ビールを飲む」というのは、これまで吾輩が人間界で見てきた「人間の習慣」からなる行為です。

つまり吾輩は、人間の習慣を会得しようとし、三平君が残したビールに手をつけて心の景気を保とうと考えたのです。
それから千鳥足になって水瓶に落ち、二度とそこから這い上がることができませんでした。
ここで吾輩は完全に人間の文化に浸透しています。

人間でも泥酔して事故を起こし、そのまま亡くなることはあるものです。
吾輩もこの経過を辿って事故を起こし、人間のように死んでしまったと捉えてよいでしょう。
そのように踏まえて最後の吾輩のセリフ。

●「ありがたいありがたい。」

このセリフを吐かせた心情は、「人間の世界に自分が溶け込むことができ、その上で人間と同じように死ぬことができてありがたい」といった「人間に近寄ることができたことを賛美する思惑」にあるとも見て取れます。

つまり吾輩は、冒頭から人間を馬鹿にするような軽視をもっていたが、最後には人間と人間の世界を賛美して、人間らしく死んでいく自分をも受け入れるという、非常な改心を物語った結末に至ります。

これを踏まえて言えば『吾輩は猫である』という作品は、
「人間の愚かさや欲深さを暴露しながらも、それらを受容し賛美している人間賛歌の物語」
となるでしょう。


↓参考書籍↓
①『気楽に愉しむ漱石入門『吾輩は猫である』下巻』

著者:武田 邦彦
出版社:文芸社
発売日:2015年12月1日

②『人類史から読む夏目漱石 展開〈1〉『吾輩は猫である』を読む』

著者:岡三郎
出版社:国文社
発売日:2015年6月4日

『吾輩は猫である』書評

【評価:4.5】

『吾輩は猫である』というタイトルからはなかなか想像もできないほどの奥行きと難解さが、本作には多分に含まれているように思います。
内容だけを取れば「非常に濃厚な作品」と言ってよいでしょう。

ですが「猫」という、人間の日常により身近な動物を主人公に立てたことで、おそらく読者側としてはその猫へのイメージや先入観がいくぶん浸透する形で、ストーリーの本意にいまいち踏み込めない弊害を持たされるきらいもあると思います。

そのぶんやはり児童文学系の作品に捉えられがちで、「本腰を入れて没頭して読む!」というまでには、少し工夫が要るかも知れません。

まとめ&感想

「動物目線」という設定で多少「児童向けの作品」に捉えがちですが、数々の形容や本意から得られる主張の具体性には、およそ一読では読み切れない怒涛のような「含み」が見えてきます。

まずは猫をゆくゆく人間のように仕立て上げていく擬人法の駆使
これにより読者は「人間の生活を、人間ではない客観的視点の持ち主による語り部」を想像させられ、ストーリーを幾様にも捉えられる重厚を打ち出されます。

次に、その擬人法で仕立てられた「吾輩(猫)」のいろいろなセリフや思惑
客観的視点に強く立たされた上で読者は、この「人間離れしたようなキャラクターの視点」から、まるで自分が思い考えたような感想を得させられます。

最後に人間界に溶け込もうとする吾輩の行動には、先述した「人間賛歌への愛着」が垣間見られ、主に児童文学作品に見られるほのぼのとした安穏と、内容から得られる非情な奥深味(おくぶかみ)にある豊潤な解釈を持たされます。

この3点をもって読んだだけでも、本作に込められた特殊な面白味と感動が、読了後も尽きずに得られるのではないでしょうか。
マルチエンドの形を取った本作は、漱石作品の内でも非常に変わった創作譚と言えそうです。


〈おすすめ書籍〉
①『吾輩は猫である/それから』

著者:バラエティ・アートワークス
出版社:イースト・プレス
発売日:2014年8月3日

②『「猫の家」その前と後―『吾輩は猫である』を住生活史からみると』

著者:平井聖
出版社:昭和女子大学近代文化研究所
発売日:2008年3月23日


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