こんにちは!
今回は私を作家に導いた作家、夏目漱石のおすすめ作品をランキング形式でご紹介します!
数多の本を読んできましたが、それまで出会えなかった文体や脚色・形容が施された“新しい文学”を教え込んだものが氏の文学であり、少年期から青年期にかけて漱石作品を通読するうち、読書することの楽しさや作文することの面白さというものを、極めて丁寧に教わりました。
いうなれば夏目漱石は、作家の楽しみというものを私に教えた先人といえるでしょうか?
夏目漱石といえば、「英文学の大家、詩人・漢文の名士」としても知られ、作品では『坊ちゃん』や『吾輩は猫である』等をもって有名ですが、氏の作家としての“すごみ”はその文調にあると言われます。
そこで今回は先述したような有名作品ばかりではなく、あまり知られていない“掘り出し物の作品”にも焦点を当て、漱石文学をご紹介したいと思います。
今回は私が自信をもって皆さまに「漱石作品に仕上げられた旋律の美しさ」をご紹介するとともに、“これだけはぜひ読んで頂きたい!”と願う「夏目漱石のおすすめ作品」をお伝えします。
お気軽に目を通して頂ければ幸いです。
では、いってみましょう!
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夏目漱石のおすすめ小説ランキング:第20位~第11位
20位 草枕
出版社:岩波書店
発売日:2017/2/10
『新小説』(明治39年)に発表された、人の怜悧の様子や非人情を描いた作品で、約2週間前後で脱稿された書下ろしに近い純文学小説です。
作中時間は日露戦争の勃発からさなかで、ある洋画家の青年が山中の温泉宿でバツイチの女性・那美と知り合い、その那美の言動の端麗さに段々と心を惹かれるところからストーリーが始まります。
洋画家ながら絵を描くことを生業としている主人公は、那美の絵を描こうとする上で「彼女の冷徹に見える仮面」に目を止め、感情の欠落のようなものを感じ取ります。
その辺りからこの「感情の欠落-(転じて)非人情」を憂い、「何とか那美に“人間らしい感情”が表に出れば自分の絵にもっと豊かさが広がるのに」と少々の煩悶を抱えていきます。
ストーリー自体はとても静かな流れで、「人間描写を軸にしながら背景描写の端麗を奏でる」といった漱石特有の描写も垣間見られ、重厚な表現ながらもしっとりとした味わいが感じられるでしょう。
本作は13編からなる長編で、じっくり腰を据えて読める人におすすめします。
「「智(ち)に働けば角(かど)が立つ。
情に棹(さお)させば流される。
」という冒頭句が有名な一作です。
19位 三四郎
(小説)
出版社:筑摩書房
発売日:1988年2月23日
(漫画)
出版社:日本文芸社
発売日:2010年5月15日
「朝陽小説」(明治41年9月‐12月)に連載された長編で、人間模様から恋愛模様を通し、三四郎が人々や世情から受ける様々なきっかけを元に成長を果していくヒューマンドラマ調のストーリー。
終始、三人称視点で描かれています。
もともと田舎者だった三四郎は東京へ出て来て様々な風習・文化の違和を覚え、自分の理想からかけ離れた東京のシビアな世界に浸ってゆく辺りは、段々と“東京の色”に染まっていく三四郎の反省と“心の機微ほど”ずつの成長が垣間見られ、「とても小説を味わった…」という気になりました。
作品の背景として、三四郎のモデルが漱石の弟子だった小宮豊隆とされ、また三四郎が惚れる相手の美禰子のモデルは同じく漱石の弟子である森田草平と心中未遂事件を起こした平塚雷鳥とされており、人物描写の根幹が作品外にも窺われ「それなりのリアルな印象」を与えてきます。
さっぱりした純愛ストーリーが好きな人には好印象の作品だと思います。
本作も13編からなる作品で、表現がやや難解な部分もありながら250ページ(文庫本サイズで)を超える長編ですので、参考にして頂く書籍情報には「小説」と「漫画」の両方をあげさせて頂きました。
漫画で読んでもじっくり内容が伝わると思いますので、「長編を活字で読むのは苦手だ…」という人は漫画版の「三四郎」をお楽しみ下さい。
18位 それから
出版社:文藝春秋
発売日:2011年7月8日
明治42年6月から東京朝日新聞と大阪朝日新聞に連載された、『三四郎』、『それから』、『門』の三部作として知られる作品です。
人生に成功する者と廃退的な生活を送る者との対照的なストーリー展開がメインに来ていて、人生についてよく思う人や、成功と失敗の両方を味わった人には「より感慨深い作品」に映るかも知れません。
人生を語る上でペーソスを匂わす“幸福と不幸”とのコラボが人間描写を通してえらく浮き彫りになっており、物語を読み進めていく上、なかなか一口に両断できない“重苦しい雰囲気”がずっとついて回るイメージでした。
漱石独特の造語表現や「作り出した既成語」の表現なども所々にあり、作品を読むとき「文語表現に面白味を追う人」には興味深い一作になるかと思われます。
文章表現に多少“クセ”がありますので、向く人と向かない人に分かれる場合もあるかと。
先述のように本作は三部作の形態を取っているので、本作を読まれる前後で『三四郎』、『門』も読んで頂きたいと思います。
ですがどちらかといえば、直接的に背景描写が続く『門』の方をおすすめします。
17位 二百十日
出版社:岩波書店
発売日:2017年2月10日
明治39年10月に『中央公論』、同年12月に『鶉籠』と連続で掲載された、「実体験を元にして描かれた作品」とも言われる。
登山家を自称する青年二人の会話体で終始するヒューマンドラマ調の仕上がりです。
漱石自身も熊本で教師をしていた頃に、友人であり同僚の山川信次郎とともに阿蘇山に登ったという史実があり、そのとき実際に嵐(二百十日?)に遭ってその登山を断念しました。
本作は恐らく、このときの経験を元に描かれた「実体験型ストーリーではないか?」と論じられることも多く、内容としてはやや三人称視点の物語風ですが、その実、私小説の風味がふんだんに漂う“回帰小説”のようにも見て取れます。
漱石は時折りこのような「会話文だけの調子」でストーリーをまとめる特異な執筆主体を取りますが、要所要所に地文の働きもあり、そこでは従来に見られる過不足のない美文が活きています。
本作はあまり脚色に凝っていないこともあり、どちらかといえばノンフィクションの作品を好んで読まれる人におすすめします。
何気ない登山の風景・突風との遭遇の風景を描く傍らで、漱石なりの端正な心情・背景描写は恐らくストーリーの各場面に明媚を添えることでしょう。
16位 琴のそら音
出版社:筑摩書房
発売日:1987年10月27日
明治38年5月小山内薫の主宰する雑誌『七人』に掲載され、『倫敦塔』、『幻影の盾』『趣味の遺伝』とともに『漾虚集』に収めされたやや幻想的な作品。
風邪をめぐって人間描写・背景描写が描かれる、漱石の幻視的な世界が活き活きとした少々真面目な展開が見え隠れする。
比喩表演を専ら得意に扱う漱石にしては少々珍しく「幽霊」という単語が経過で見られ、ストーリーの所々に闇の部分を覗かせながら「明るい結末へ辿ろうとする主人公の姿勢」はやや滑稽にも見えるでしょうか。
表現道具として「音」を扱い、比喩表現ならぬ擬音表現に駆使された描写の中味は、なかなか味わうことの少ない「新しい作品表現」に富んでいます。
テーマは非常によく見られる男女の契りにまつわる恋愛描写と、その周囲で動く関係人物との交流で、構成としては「その『人の世界』に幻想の世界が舞い込めばどうなるか?」といったような二重構造が組まれています。
なので、少々読むのに難解を感じるかも知れません。
漱石の作品には多少「幻想」を扱った作品がありますので、本作はその手始めに読まれることをおすすめします。
「漱石の幻想的な作品が読みたい」と思う人はぜひ読んでみて下さい。
15位 倫敦塔
出版社:新潮社
発売日:1952年7月22日
『帝国文学』(明治38年)に発表された、作者の留学中に見物したロンドン塔の感想をもとに描いた幻想的な作品です。
ロンドン塔といえばロンドンを流れるテムズ川の岸辺、イースト・エンドに築かれた中世の城塞で、そこではヘンリー6世をはじめ、トマス・モア、キャサリン・ハワード、ジェーン・グレイなど、数々の偉人や歴史上の人物が処刑された幽閉場としても知られています。
その場所を英国留学中の漱石が私的に訪れ、そこで経験したあらゆる幻想・空想を元にして描かれた「私小説と幻想小説のあいの子の作品」といってよいかも知れません。
とはいえ、経験したその出来ごとの多くを氏の空想によりまとめられ、内容は主に幻想的描写に偏った仕上がりとなっているのでどちらかといえば「幻想小説への脚色」が濃く根付いており、幻想好きな人はさらに興味を深められるかも知れません。
ややホラー・ミステリ要素も組まれた作品ですので、ミステリ好きの人にはさらっと読まれるかも知れません。
そのロンドン塔で氏が「実際に見た」という歴史上の人物の輪郭描写が、ことさら際立って深く印象に残りました。
14位 こころ
出版社:筑摩書房
発売日:1988年5月31日
言わずと知れた漱石の代表作の1つで、「朝日新聞」(大正3年)で「心-先生の遺書」として連載される一方で、岩波書店からの自費出版・自己装填での出版、さらに「朝日新聞」上で再び連載が開始された、日本文学誌上最高の売り上げを示した稀代の名作。
「私はその人を常に先生と呼んでいた」、「死んだつもりで生きて行こうと決心した私の心は、時々外界の刺戟しげきで躍おどり上がりました…」などの名文で知られる漱石の渾身の一作として知られる『こころ』は、恐らく読者の皆さんも小学校から中学校辺りに、一度はその題名を聞かされたことと思います。
私はこの『こころ』を初めて読んだときには“ただの三角関係?”といったような拍子抜けした感想を覚えさせられたものですが、この作品は恐らく二度、三度、読むうちに、その妙味を莫大に解き明かしてくる「結晶的な作品ではないか?」と思われるようになりました。
読むごとに描かれる表層が一枚ずつ剥がされてゆき、残された“結晶”のような骨芯の描写にはその作品の“悍ましさにも似た正味”が隠されているように感じられました。
人でありながら「生気の臭味と幸福による恐怖」をまるで底無しに味わわされる展開には、漱石ならではの重厚な独創が漲っています。
恋愛小説や幻想小説、またフィクションからノンフィクションまで、どの分野に興味がある人でも本作の深意は読めば読むほどその心に鋭く突き刺さると思います。
まずは「恋愛小説」を読む感じでよいかも知れません。
漱石自身も“太鼓判”を推した本物の作品をぜひ読んでみて下さい。
ただ難解な表現が多いので、「おすすめ作品」としてはこの位置に留めておきました。
関連記事⇒【あらすじ&感想】夏目漱石『こころ』をもっと詳しく知る
13位 一夜
出版社:筑摩書房
発売日:1987年10月27日
一部屋と一夜を舞台にして3人の男の会話がメインで、夢なのか現実なのか、判別し辛い情景描写に突然やってくる結末のあり方が秀逸。
やや幻想に凝った短編です。
漱石作品のうちに『夢十夜』がありますが、その一夜をもじったような、なんとも言えない不思議な光景が広がるストーリーです。
八畳座敷に3人の男が寝そべるようにいて、人生を語らいながらも世情で起きた事件のことなんかを闇雲に話題へ盛ってくる辺りは、いかにも漱石らしい「布石の打ち方」が冴えています。
『吾輩は猫である』や『夢十夜』、『行人』などに比べるとややその著名度を落とす作品に思われますが、内容の濃厚性はなかなか読み解くにも手ごわく、じっくり読むのに非常に適した一作に思えます。
やや短い作品であり多少のユーモアも交えた作品に仕上がっていますので、「楽しみながら漱石の作品を読んでみたい」という人にはぜひおすすめしたいです。
[ad#ad-1]12位 道草
出版社:新潮社
発売日:1951年11月30日
「朝日新聞」(大正4年)に掲載された長編小説で、平凡に生活していた主人公・健三が妻であるお佳との交流や世情との交際の果て、独自の人生観を見出してゆく滑稽なれども、哀愁の漂う臨場に富んだ作品。
私は本作を高校生時に読みましたが、その頃にはまだ本作に秘められた妙味というか深い感動というものを充分に味わえていなかったと思います。
ただ“平凡すぎるストーリー”に映ったものです。
ですが、最近に改めて本作を読み直してみると「健三が人生観を誰にも何にも頼らず、独自に編み出してゆくように見える場面」には、大きく心を揺さぶられる感動を覚えさせられました。
恐らく本作は一度や二度の読解では得られない、「平凡にこそ生きる深い幸福」のようなものが込められています。
・「健三は実際その日その日の仕事に追われていた」
・「あなただって些ちっとも過去に煩わされているようには見えませんよ。やっぱり己の世界はこれからだという所があるようですね」
・「世の中に片付くなんてものは殆どない」
この台詞の並びに“健三が生きる上で自然に得ることのできた憐みのようなもの”が見え隠れしていて、いっとき哲学や宗教に凝っていた私には“唸るほどの感動”が湧きました。
テーマは重いですが、脚色や展開は平易ですので読みやすいと思います。
これもじっくり読みたい人におすすめです。
11位 坑夫
出版社:筑摩書房
発売日:1988年1月26日
明治41年の元日から、東京の『朝日新聞』に91回、大阪の『朝日新聞』に96回に渡って掲載され、他人の経験を元に描かれた(漱石にしては珍しい)ルポルタージュ的な長編小説。
『虞美人草』についで、漱石が職業作家として書いた2作目の作品です。
本作が描かれるまでの背景には漱石自身の人間関係が影響しており、漱石の元を訪れた知人から「自分の身の上話を作品化してほしい」と依頼され漱石はこれを初め断りますが、同時期に『春』を執筆していた島崎藤村の苦悶が相まって、急遽その穴埋めを果たすべく描かれた臨時的な作品としても知られます。
背景描写には日常的な炭鉱夫の生活が描かれており、その一方で、高位の家柄にあった青年が恋愛のもつれにより家を飛び出しその工夫の生活へと埋没してゆく「やや堕落の様子」が浮き彫りにされています。
何と言っても青年の苦悶の様子が、従来送ってきた不足のない生活に比べて暗鬱的で、その悩みをどう消化していくのかといった「深い心情描写」が秀逸です。
漱石作品の内ではとてもわかりやすい一作で、文章表現も平易ながら、その内容も比較的凡庸なので、「漱石の長編を手ごろに読んでみたい」という人におすすめです。
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