夏目漱石『坊ちゃん』3分で分かる簡単なあらすじと感想&徹底解説!

坊ちゃん

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多くの人に愛されてきた夏目漱石の名作古典『坊ちゃん』は、『ホトトギス』(明治39年)に初出が出て以来、昭和10年の『坊ちゃん』(監督:山本嘉次郎)の映画放映を皮切りに、その後も映画化・ドラマ化・アニメ・漫画化から舞台に至るまで、パロディを含むバラエティに富んだオマージュ作品も生まれています。

今回は夏目漱石の小説『坊ちゃん』がどんな作品だったのかを、あらすじと作中の「あだ名」から解説してみます。

『坊ちゃん』作品詳細

著者 :夏目漱石
出版社:新潮社
発売日:2003年4月

『坊ちゃん』の主な登場人物・名前一覧

坊ちゃん
本編の主人公。語り手で、1人称は「おれ」。
無鉄砲な江戸っ子気質の持ち主。
悪戯好きで喧嘩っ早い性格ゆえに両親からは冷たく扱われ、兄とは不仲である。


坊っちゃんの家の下女。
明治維新で落ちぶれた身分のある家の出。

山嵐
数学の主任教師。 会津出身。
面構えは坊ちゃん曰く「(比)叡山の悪僧」。
正義感の強い性格で生徒に人望がある。

赤シャツ
教頭。坊っちゃんの学校でただ一人の帝大卒の文学士。
陰湿な性格で、坊っちゃんと山嵐から毛嫌いされる。
通年、ネルの赤いシャツを着用する。

野だいこ
画学教師。東京出身。
赤シャツの腰巾着。名字は吉川。

うらなり
英語教師。お人よしで消極的な性格。
元マドンナの婚約者であったが、赤シャツの陰謀(表向きは家庭の事情)で再三拒否したにも関わらず 延岡に転属になる。

マドンナ
うらなりの婚約者だった令嬢。
赤シャツと交際している。
坊っちゃん曰く、「色の白い、ハイカラ頭の、背の高い美人」 。
作中のキーパーソン 的存在。


坊っちゃんの学校の校長。
事なかれ主義の優柔不断な人物。

【簡単】3分でわかる『坊ちゃん』のあらすじ

一言でいえば、人情ドラマ。
都会からやって来た無鉄砲で気骨のある青年・坊ちゃんは、父親と仲良くありません。

父親が亡くなったあと、遺産を相続しながらそのお金で大学に入り、教師になるための努力をします。
教師資格を取ったあとで四国の田舎に住み着き、そこで中学校の教師になります。

そこから人情ドラマの始まり。

田舎では都会に住んでいた坊ちゃんの気に入らないことばかり(とくに派閥や村意識による、善悪や道徳の判断があいまいな点)。
教師になってから周りの人物に、坊ちゃんはそれぞれの気質に合ったあだ名を付けていきます。
生徒ともはじめ、うまくいきません。

坊ちゃん自身も生徒から「てんぷら先生」というあだ名を付けられ(てんぷらうどんをモリモリ食べていたのを生徒に見られたのがきっかけ)、面白みがありながらもなかなか波乱を含む人間模様が展開されていきます。

そしてついに坊ちゃんは、その持ち前の性格を発揮して、気に入らない人たちに制裁を食らわすようになっていきます。そして最後に、芸者遊びに明け暮れる赤シャツと野だいこに正義の鉄拳を食らわし、そのまま四国を去り教師をやめ、東京で坊ちゃんの帰りを待っていた「清」とともに末永く暮らしました。

『坊ちゃん』の結末(ラストシーン)

都会から田舎の中学校に教師としてやって来た坊ちゃんは、その田舎での人間付き合いに良し悪しを見ますが、結局俗物的な人たちとの交流を嫌って田舎を去り、元の都会・東京へ帰って来ます。

そこで坊ちゃんをずっと待ち続けていた清との生活に落ち着き、余生をその静との一軒家で過ごすことになります。
出戻りの気骨者、といったところでしょうか。

『坊ちゃん』のタイトルはどこから?

「坊ちゃん」というのはもともと箱入り息子を指す俗用語でもあり、その点から「世間知らずの男の子」をいう時に使われます。

その意味から見て、世間で通用しているあいまいな善悪や道徳といったものに、自分の主観でそぐわない点があれば、その納得いかない点をとことん正していく「気骨のある主人公」を表しているのでしょう。


〈参考書籍①〉

『坊ちゃん』

編者:森川成美
出版社:集英社
発売日:2011年5月2日

〈参考書籍〉
『早読み!日本の文学作品』

著者:手束仁
出版社:kindle版
発売日:2014年5月31日

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『坊ちゃん』を考察、解説

『坊ちゃん』の作中には、いろんなあだ名が特徴的に出てきます。
なぜ本作にはこんなに「あだ名」が頻繁に出てくるのでしょうか?
ここに「何かある?」と少し疑問に思ったため、今回はこのあだ名を基準にして作品解説をしてみたいと思います。

「あだ名」というのはそもそもニックネームや愛称の意味で、親しみをこめて相手を呼ぶ時に使う略称です。
ですがこの「愛称やニックネーム」は場面や人間関係において、さまざまに変化することがあります。
この場合はニックネームの意味合いの方が強まるでしょうか。

本作に登場する「あだ名」は、その展開や人物描写により、このニックネームの方で使われているのでしょう。
ここでは語り手から少し離れて、客観的な視点をもって「あだ名の使用」について眺めてみて下さい。


・まず「坊ちゃん」。
先述したように「坊ちゃん」というのは「気骨ある、清純男子」あるいは「世間知らずの主観オンリーの人」の意味合いで使用されているのではないかと言いました。
本作では恐らくこの通りの背景をもって使用されているとして、この主人公・坊ちゃんは、世間に通用しているあらゆる善悪の判断基準というものを、自分の主観にそぐわなければ一刀両断する、とても一本気な性格の持ち主であることが窺えます。

・次に「清」。
これはあだ名かどうかわかりませんが、清は常に坊ちゃんの味方をしてくれます。
この点から見て「清」という名前は、坊ちゃんの言動を常に褒める、「坊ちゃんのあり方を丸ごと認めてくれる人物」の名前を指すものと考えられます。

・次は「山嵐」。
正義感の強い気骨ある人物で、生徒からの人望も集め、坊ちゃんとははじめ仲たがいしますが果ては意気投合します。
つまり「坊ちゃんサイドの人物」です。

・次は「赤シャツ」。
坊ちゃんが赴任した学校の教頭で、学校で唯一の帝大卒のエリート文学士。
坊ちゃんと山嵐からは相当嫌われる。身に付ける物も派手なものが多く、なんと言っても「うらなり」からマドンナを横取りしたという悪行が光る。に関わらずまだ芸者遊びに明け暮れるという、どうしようもない俗人。

・次は「野だいこ」。
画学の教師で、赤シャツの腰ぎんちゃく的存在。
「~でげす」という芸人口調を常に保ち、陰口や上司へのおべっかだけは忘れない、これまた俗人の小物。
赤シャツとともに、芸者遊びで朝帰りしたところを坊ちゃんと山嵐に懲らしめられる。

・次は「うらなり」。
消極的な人物。でも性格は朗らかで、マドンナの元婚約者でもあった。
坊ちゃんとはツーカー的存在で、坊ちゃんにとって彼はよい理解者だった。

・次は「マドンナ」。
学校一の美人であって、気品のある令嬢。
だけれど、うらなりの元婚約者だったにも関わらずすぐに赤シャツと交際したりして、かなり浮気好きな一面もある。
女性特有の身軽さを、恋愛・交際において発揮している。

・次は「狸」。
坊ちゃんが赴任した学校の校長で、事なかれ主義の優柔不断な人物。
そのくせ出世欲は盛んであり、赤シャツや野だいこたちの策略に加担することもある。


だいたいこんな感じですが、これだけ見ても『坊ちゃん』という作品が出版された当時の背景をもって、「どんな主張を持った作品だったのか?」ということがおのずと見えてきますね。

発表当時は明治維新から少し過ぎた文明開化の影響もあり、いわゆるファインアートをはじめ、異国の流行がモロに入ってきた偏流の時代です。
つまり、現代に見られるような「量産主義・資本主義の傾向」がにわかに立ち上がってきた「俗物」が生まれ始めた時代です。

弱い者は強い者の参加に入り保身をはかる「世渡り上手」が、段々世間の潮流を担い始めた時代でした。
赤シャツや野だいこはまさにこの「俗物」を表す存在で、坊ちゃんと山嵐はその俗物の流儀や方針にことごとく逆らう「正義漢」を表す存在。

そして清は坊ちゃんを支える存在であるため、その「正義漢」を肯定する存在。
とくにうらなりは現代に見られる「気弱で内気な青年」的存在で、このうらなりは正義漢を表す坊ちゃん・山嵐・清と同じサイドの人物となります。

そしてマドンナは、今も昔も変わらず存在し続ける「女性」的存在で、とくに流行や損得勘定で言動が左右される「浮気な娘」といったところでしょうか。

最後に狸は俗物を統率するリーダー的存在で、地位と権力だけを持ち合わせ、その力に物を言わせる俗物の親玉といったところでしょう。

これらの読解を踏まえて『坊ちゃん』という作品は、「資本主義に呑まれ始める(当時の)現代の俗悪的な世間に、坊ちゃんや山嵐のような気骨のある人物を抗わせ、その正義漢たちに最後に華を持たせている世直し的作品」と言ってよいでしょう。

また田舎でこのような俗物が蔓延る風潮が目立ったということにも、本作が指す妙味というか、隠れた主張が窺えます。

田舎というのは、情報発信基地の都会に比べれば遥かに「それまでの日本独自の風潮」を残すものです。
ですがその田舎でさえ、俗世間で見られる「世渡り上手」や「軟弱的な外交・交流」が流行っていると主張することで、日本は根っから俗物的意識に呑まれた「軟弱な国」という暗喩的表現も加味されています。

総じて『坊ちゃん』という作品は、当時に流行った俗世間の風潮に対して、夏目漱石の理想をぶつけた作品ということになります。


〈参考書籍〉
①『坊っちゃん 新装版』

著者:夏目漱石
出版社:講談社
発売日:2007年10月30日

②『新装版文芸まんがシリーズ 夏目漱石 坊ちゃん』

著者:夏目漱石、登龍太
出版社:ぎょうせい
発売日:2010年4月13日

『坊ちゃん』書評

【評価:3.5】

ストーリー的にはさほどの凹凸もなく刺激もなく、何というか淡々と毎日が描かれているという風で、現代の過度な形容が施された作品に魅了されている読者にとっては、あまり刺激にならない一作になるかも知れません。

ですが本作の深みは人間描写にではなく、主にその作品に内在された暗喩的な皮肉に込められてあるもので、その妙味を紐解くことで、書評に加点される可能性は大です。

まとめ&感想

私的にあまり感動は受けませんでしたが、それでも作品の奥底に眠らされた「俗世間への皮肉めいた主張」の部分にはそれなりに思うところもあり、なかなか一口には「こういう作品」と言い切れない内容があります。

この「世間への皮肉めいた主張」の部分を頭の中で膨らませて読んでいくと恐らくそれなりの「含みのある表現」が生まれてくると思いますが、なかなかストーリーの端的な流れからみると、やはりその骨子的部分(内在された本意の部分)には感想が届かないかもです。

その点からするとこの『坊ちゃん』は、なかなか難しい作品と言えるかも知れませんね。
とにかくこれから本作を読んでみようという読者には、本作が描かれた当時の世情がわかる当時資料を先に読み、その体験をもって読み解いてほしいと思います。

「ほのぼのとしていながら、なかなか内容が深い作品」を読みたいという人には、ぜひおすすめしたい一作です。


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