太宰治『走れメロス』の言葉の意味を徹底解説!あらすじ&感想を語り尽くす!

太宰治『走れメロス』

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太宰治の小説『走れメロス』は、人間の友情を扱った短編小説で、『新潮』(昭和15年)に初出が掲載されてから現代まで、ドラマ化から映画化、アニメ化や朗読書籍(CD化)、舞台化まで、数多の派生作品・オマージュ作品が発表されている。

『走れメロス』のあらすじから結末、そして作中の言葉
「間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。
人の命も問題でないのだ。
私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ」
が指す意味を解説します。

『走れメロス』作品詳細

著者:太宰治
出版社:岩波書店
発売日:1957年5月6日

概要

純朴な羊飼いの青年メロス(Moerus)は、十六になる妹の結婚のために必要な品々を買い求めにシラクスの町を訪れたが、町の様子がひどく暗く落ち込んでいることを不審に思い、市民に何が起きているのかを問う。そして、その原因である人間不信のために多くの人を処刑している暴君ディオニス王(ディオニュシオス2世)の話を聞き、激怒する。
創作のきっかけになったものとして、壇一雄と井伏鱒二との熱海の宿でのエピソードがある。太宰が借金をしていた壇一雄に対し、井伏との談笑に明け暮れて恰も約束を反故にした経過がある。それを壇に責め寄られた太宰は、「待つ身が辛いかね。待たせる身が辛いかね。 」と逆に聞き返し、友情を信じられるか否かの問答を吹っかけたという。

映画化などへの略歴

(映像化)
『走れメロス』(1995年、NHKドラマ)
・『奇巌城の冒険』(1966年、東宝・三船プロダクション)-メロス役は三船敏郎(役名は大角)。
・『赤い鳥のこころ 日本名作童話シリーズ 走れメロス』(1979年、テレビ朝日、アニメ)
・『走れメロス』(1981年、フジテレビ、アニメ(制作:東映動画、日生ファミリードラマスペシャルにて放送)―声の出演:あおい輝彦、マキノ佐代子、壇ふみ、古川登志夫
・『走れメロス』(1992年、アニメ映画)
・『てれび絵本・走れメロス』(2006年朗読・山本太郎)
・『青い文学・走れメロス』(2009年、日本テレビ、アニメ)
・『太宰治短編小説集「走れメロス」』(2010年、NHK-BS2)-出演:森山未来、田中泯、モロ師岡

(朗読)
・『新潮カセットブック 駆け込み訴え・走れメロス』(新潮社、1988年2月)―朗読:草野大悟
・『太宰治作品集 全10巻―一文芸カセット 日本近代文学シリーズ』(岩波書店、1988年6月)―西田敏行
・『朗読の時間 太宰治』(東京書籍、2011年7月18日)―朗読:市原悦子

(舞台)
CLIEが製作する朗読演劇シリーズで舞台化された。キービジュアルは しりあがり寿。
・極上文学 第7弾『走れメロス』(2014年12月、製作:CLIE・企画:MAG.net・製作:Andem)

引用元:wikipedia

『走れメロス』の主な登場人物の名前一覧

●メロス
本作の主人公。羊飼いの青年。
故郷の人たちからは子供の時からでたらめな性格と言われていたが、人一倍正義感が強く、自分の命よりも自分に対する信頼にこたえることを重要なことと考えている。

●メロスの内気な妹
メロスの妹。
仮釈放によって帰ってきたメロスによって、その日のうちに結婚式を挙げることになる。
しっかりとした性格でメロスとは対称的に村人からの信頼も厚い。

●セリヌンティウス
メロスの親友となったシラクスの石工。
小さいときから石工としての才能を発揮し、15歳にして石工として最高の地位である王宮付き親方に任命された。
本編より3年前のある出来事をきっかけに人間不信に陥る。人を信頼する心を取り戻すために、メロスに全てを賭ける。

●ディオニシウス2世
シラクスの王。猜疑心の塊で人間不信。
かつては独裁者であるにもかかわらず市民からの人気は高かったが、些細な罪で市民を処刑するようになり、市民からの信用を失う。
人間を全く信用しておらず、メロスが裏切ることを確信していたが、誓いを果たしたメロスとセリヌンティウスの友情を目の当たりにして2人を釈放する。

●アレキス
ディオニシウス2世の家来の賢人。
ディオニシウス2世からメロスの監視を命じられるが、次第にメロスの姿に心打たれていく。
本作の語り部でもある。

●老爺
シラクスの老人。
メロスに対して、町のガイド役を申し出る。
セリヌンティウスの知人で、ライサとともにメロスの後をつける。

●フィロストラトス
セリヌンティウスの弟子。

引用元:青空文庫wikipedia


↓参考書籍↓

1『走れメロス 太宰治 名作選』

著者:太宰治
監修:斎藤孝
出版社:アスキー・メディアワークス
発売日:2010年2月15日

2『走れメロス・富嶽百景』

著者:太宰治、高芝昌子
出版社:ホーム社
発売日:2010年7月1日

3『齋藤孝のイッキによめる! 小学生のための夏目漱石×太宰治』

編集:斎藤孝
出版社:講談社
発売日:2012年3月16日

【簡単】3分でわかる『走れメロス』のあらすじ

16歳になる妹の結婚のために必需品を買おうと、シラクスという町を訪れたメロスは、その町の様子がひどく落ち込んでいるのを不審に思う。

そこで町人の1人・老爺に様子を伺うと、その町を治める暴君ディオニュシオス2世が人間不信のために、数多の人々を簡単に処刑しているという事実を知り、激怒する。

そしてメロスは暴君を暗殺しようと城へ入るが、あえなく捕らえられ、ディオニュシオスの前に引き出される。
そこで「人のことなど信じられぬ」と憤るディオニュシオスに対しメロスは、「人を信じることの尊さ」を教える。

しかし、メロスは王を暗殺する容で捕らえられたため、当然処刑される運命にある。
そこでメロスは「信じること」の尊さをディオニュシオスに教えるために、妹の結婚式を済ませたあとで、もう一度「処刑されるためにここへ戻ってくる」とディオニュシオスに約束を取りつける。

ディオニュシオスとメロスとの間で交わされた「(自分が殺されるとわかっていても)町へ戻る」という約束を守り、メロスは「人の信頼の強さ」をディオニュシオスに伝えようとしていた。

「人がわざわざ死ぬために戻ってくる筈がない」とディオニュシオスははじめ信じようとはしないが、珍しいことをいうものだと、メロスの言い分を聞き入れ、メロスの帰還を待つことにする。
しかしただでは信用できないディオニュシオスは、メロスの親友であるセリヌンティウスを人質に取り、もしメロスが約束を破ればその瞬間にセリヌンティウスを殺すと、メロスと約束しながらもそれなりの担保を取った。

それからメロスは妹のために村へ戻り、結婚式を済ませ、親友・セリヌンティウスのために全力でシラクスの町に戻り始める。


↓参考書籍↓

1『太宰治の世界 走れメロスと人間失格』

著者:如月翔悟
フォーマット:Kindle版

2『クイズで読む名作「走れメロス」』

著者:橋上メロス
フォーマット:Kindle版

『走れメロス』の結末(ラストシーン)

王・ディオニュシオスは、ぎりぎりだが間に合ったメロスを、「きちんと約束を守った男」として褒め称え、人質に取ったセリヌンティウスとともに寛大に放免します。

そしてセリヌンティウス、メロスが互いに持ち合う不変の信頼に誘われ、自分にもここまで信頼できる友人がほしいとまで言わせます。

メロスは走っている途中で、セリヌンティウスは待っている途中で、互いにちらと友情を疑った事実を明らかにします。
そしてその「疑った自分」を罰するべく互いに告白し合い、拳骨一発で解消し合う気丈を持ち合わせます。

こうしてメロス、セリヌンティウスともに友情をさらに固くし、王をはじめ市民の皆は、二人の友情・結束のあり方を喝采します。

【考察・解説】『走れメロス』作中の言葉の意味

「間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ」という言葉はどういう意味か?
これは暴君王・ディオニュシオスと「町へ戻る」と約束したあとのメロスのセリフ。

妹の結婚式を済ませてシラクスの町へ全力疾走している途中、少し休憩しているさなかにちらとメロスが弱音を見せるシーンがある。
時間が間に合わない。
このフレーズをもとにメロスは、数々の誘惑を受けつつ、セリヌンティウスの弟子・フィロストラトス がいう「むだです!もうやめてください!」という誘いに「本当に間に合わないかも…」と挫折しかける。

●私の命なぞは、問題ではない。死んでお詫び、などと気のいい事は言って居られぬ。私は、信頼に報いなければならぬ。

メロスは約束の時間に遅れることを半ば予想しながらも、正義のために走り続ける。

●メロス。おくれてはならぬ。愛と誠の力を、いまこそ知らせてやるがよい。風態なんかは、どうでもいい。メロスは、いまは、ほとんど全裸体であった。呼吸も出来ず、二度、三度、口から血が噴き出た。

容姿などどうでもよく、とにかく人との信頼を守ることが第一優先だということを、全面に打ち出したメロスの覚悟と様子。

●やめて下さい。走るのは、やめて下さい。いまはご自分のお命が大事です。あの方は、あなたを信じて居りました。刑場に引き出されても、平気でいました。王様が、さんざんあの方をからかっても、メロスは来ます、とだけ答え、強い信念を持ちつづけている様子でございました。

いよいよ処刑されるセリヌンティウスが、刑場へ引き出されるときの様子を如実に語ったフィロストラトスの言葉。
「あの人はあなたへの信頼を貫いているので平気」、「いまはご自分のお命が大事」というところが、実に人間らしい表現である。

●私だ、刑吏! 殺されるのは、私だ。メロスだ。彼を人質にした私は、ここにいる!

シラクスの町から城へ戻ったメロスの第一声。
人の犠牲になり自分が殺されようとする姿勢は、およそ人間の言動ではあまり見られないもの。
裏返せば貴重な行為と取れる。

●ちから一ぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。君が若し私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。

メロスがセリヌンティウスに言った言葉で、走っているうちに自分が親友を疑ったことを理由に、自分を殴れという。
まるで処刑と信頼の重さを同等(あるいはそれ以上)に捉えた、気高いセリフ。

●メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。

そしてセリヌンティウスとメロスは互いを殴り合い、自分が処刑されることよりも互いの信頼に重きを置いた姿勢をもって、互いに抱擁し合う。

●おまえらの望みは叶かなったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。どうか、わしの願いを聞き入れて、おまえらの仲間の一人にしてほしい

抱擁し合うメロスとセリヌンティウスを見ながら、自分にもこれほどに信頼し合える友人がほしいと、ディオニュシオスは二人を讃える。
そして人を信頼することの大事をも聞き入れ、これまでの自分の姿勢と行ないを反省した。

●メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。

城にいた一人の少女がメロスに近づき、裸のメロスに着物を着せようとする。


ここまでを見てみると、確かに「人を信じること」の重要を全面に打ち出して説いているように見えます。
その1つ1つのシーンを覗いてみると、さらに人生を生きる上で人が経験するような、「人を信じること」、「信じたくても信じられないこと」、「少しのことで疑うこと」などが、ごく簡単な例をもって簡潔に述べられていることがわかります。

非常によくできた作品で、信頼をテーマに掲げながらも、現代人の生活にさえ通用する普遍的な本意を持たされていますね。

「間に合う、間に合わぬは問題でない」というのは、時間の経過がどうあれ、人を信じきることが最も大切で、自分の言動に終始貫徹して責任を持つという、社会的責任の重要を説くようにさえ窺えます。

たとえ間に合わないでセリヌンティウスが処刑されても、メロスはシラクスの町から城へ戻ることが大切であり、親友が処刑されていれば自分も一緒に死のうとさえ覚悟していたことでしょう。
つまり、信頼を表す際には、時間の経過は関係ないということ。

見えないところで誰が何をしているのかわからないものです。
その見えない「闇の部分」というものを膨張させて、人はよく他人を疑ってしまうものです。

この妄想の膨張をまずやめ、とにかく人を信じきること、自分がその信じることに徹することをメインに置き、相手への疑いの一切を消そうとする対人の姿勢を謳っているのでしょう。

さらに踏み込んでいえば、「間に合わないかも知れない」というセリフをはじめ、親友を疑うという考えは、約束が果たされる前の「人の心がなさせているもの」で、事実・結果とは違うものです。
事実・結果は「セリヌンティウスが処刑されるまでにメロスが間に合った」、また「セリヌンティウス、メロスともにディオニュシオスに羨ましがられるほどに認められた」というもの。
ここに、人の妄想による疑いと事実との、確実なズレがあります。

徒労や、くたびれもうけ、皮算用など、事前に早合点して事を決めてしまう癖が人にはありますが、これらも結果とは異なる場合が多々あるものです。
人を信頼するときにもその早合点は不要だということを説く、まさに人生における道徳的な作品とも言えます。

作中の言葉(セリフ)ポイント1

「間に合う、間に合わぬは問題でないのだ。人の命も問題でないのだ。私は、なんだか、もっと恐ろしく大きいものの為に走っているのだ」

このセリフは結局、「間に合う、間に合わない」という予測により信頼を図らず、約束したことを貫徹するという不変の覚悟を重用せよという、当たり前の道徳を謳ったものだったのでしょう。

そして「もっと恐ろしく大きいもの」というのは大儀の意味で、「間に合わないかも知れないからやめる」といった個人的な視点よりも、人との信頼を重要視する協調的な視点を持つことが本来の人のあり方という、人にとっての大儀(至高の道義)を謳っているのです。

そして上記のメインの解説に加え、もう1つ本作に込められた難解な妙味が、最後の一文にあると思われます。

作中の言葉(セリフ)ポイント2

「メロス、君は、まっぱだかじゃないか。早くそのマントを着るがいい。
この可愛い娘さんは、メロスの裸体を、皆に見られるのが、たまらなく口惜しいのだ。」

少女が裸のメロスを見て、他人にメロスの裸を見られるのが嫌だというような、独占欲を掻き立てるような書き方をしています。
これは確かに「少女がメロスを好きになったから、その独占したい人の全てを人に見せたくない」という恋愛特有の心情とも取れますが、私としては、太宰だけに「キリスト教的な意味合い」が込められているのではないかと思います。

人の罪はエデンの園から発生したといいます。
エデンの園に住んでいたアダムとイブが、神の教えに背いて、禁断の果実を食べたことに端を発するというものです。

その果実を食べたことによりアダムとイブは知識を身につけることができ、それまで裸で何ともなかった二人は途端に恥ずかしくなって服を着ます。

この恥じらいが、現代において人が服を着る原点的なきっかけになったと言われます。
本作の末尾では、メロスが自分で服を着たわけではありませんが、それでも人が人の裸を隠そうとしたことに変わりはありません。

つまりこの末尾において、「非常に美しい友情を描いたが、それでも、この友情は人の世界で描かれた友情なのだ」という、太宰による念押しのような主張が込められているような気がしてくるのです。
このようにすることで、
「これは夢物語ではなく、やろうと思えば誰にでもやれる、人にとってとても現実的な物ごと・ストーリーである」
という主張に置き換えられます。

もちろん解釈は十人十色で移ろいますが、このような深読みによる解釈も、本作が求める1つの感動的なものではないでしょうか。
ぜひあなたも、本文を踏まえた末尾の箇所をいろいろな形で解釈してみて下さい。


↓参考書籍↓

1『典獄と934人のメロス』

著者:坂本敏夫
出版社:講談社
発売日:2015年12月3日

2『はじめての太宰治』

著者:知的発見!探検隊
出版社:イースト・プレス
発売日:2009年10月1日

『走れメロス』書評

【評価:5.0】

「友情」をモチーフにしたごくありふれた作品ですが、読書する際には非常に感想を持たされやすい、実にわかりやすい仕上がりになっています。

そして先述にありますが、友情物語だけでは決して終わらない「現実と理想のあり方を複雑に絡めた、奥深さ」も併せ持ち、精読からさまざまな解釈を得るのにも持って来いの作品と言えそうです。

まとめ&感想

やはり末尾の箇所に注意を取られ、「この物語をもって太宰は、何を読者へ訴えたかったのか?」という尽きない疑問が飛び交います。
太宰はキリスト教の教典・聖書を非常によく読んだ作家で、他の作品にも聖書から題材を取ったものは多く、また大体どの作品でも多少の影響を受けています。

本作のメインテーマが「人を信じ、それへの行為を徹底すること」にあるのはよくわかりますが、太宰がいつも小説の作法に取ってきた「小説世界と現実世界との斡旋(接点を設けて感動を与える)」というものが、本作の場合どこにあるのかが未だに定まりません。
それだけ本作『走れメロス』は非常な奥行きを持った作品なのでしょう。


↓さらなるおすすめ書籍↓

1『桜桃・雪の夜の話―無頼派作家の夜』

著者:太宰治
編集:七北数人
出版社:実業之日本社
発売日:2013年12月5日

2『太宰治大事典』

編集:志村有弘、渡部芳紀
出版社:勉誠出版
発売日:2005年1月14日

3『太宰治の四字熟語辞典』

著者:円満字二郎
出版社:三省堂
発売日:2009年5月22日


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