日本の売れっ子作家、村上春樹。
ノーベル文学賞発表前夜になると、毎回彼の名前が話題に持ち上がりますよね。
35カ国語にも翻訳されるようになった彼の作品からも、「世界の村上春樹」と言っても過言ではないでしょう!
そこで、村上春樹のおすすめ作品10選と、
「どんなあらすじ(ストーリー)なの?」
「主人公はどんな人?」
「どうしておすすめなの?」
これらをご紹介したいと思います!
ファンの方はもちろん、
村上春樹をこれから読もうかな、という方、
村上春樹を読んで挫折したけどもう一度挑戦したい!という方、
そんなに人気っていうなら読んでやろう、という方、必見です!
村上春樹のおすすめ小説ランキング:第10位~第4位
第10位 『風の歌を聴け』
出版社:講談社
発売日:2004-09-15
【あらすじ】
1970年の夏。
「僕」は大学からの友人である「鼠」と「ジェイズ・バー」にいる。
退屈しのぎに二人はそこへ通い、ビールを飲んではピーナッツを齧り、とりとめもない話をしていた。
するとそこへ泥酔した女の子が現れる。
「僕」は介抱の必要を感じ、彼女を自宅へ泊めるも、翌朝彼女に「知らない女と寝るなんて最低」だと誤解を招く。
「僕」と「鼠」と「女の子」。
彼らがそれぞれに抱くほろ苦い恋愛模様は、1970年の流行歌とともに過ぎ去っていく…。
【「僕」の主人公像】
『風の歌を聴け』の「僕」は文章を書くとは何か、と思索しています。「デレク・ハートフィールド」という作家から文章の多くを学び、8年間もの間、納得できる文章が書けずに悶々とした日々を送っていました。
このように、「僕」は文章を書くこと、つまり小説を書くとは一体何なのか、を非常に意識しています。
それもそのはず、この作品は群像新人賞を受賞した、村上春樹の処女作なのです。
「完璧な文章は存在しない」という言葉に慰めを得ていたという「僕」。
そんな記述から「僕」と自身の文学スタイルを模索する村上春樹を重ねて読んでしまいます。
【おすすめのポイント】
この作品の後『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』と2作続きますが、いずれも『風の歌を聴け』の内容を引き継いでいます。
村上春樹の作品の原点を知るには読んでおきたい一冊です。
また、処女作ということもあり、後期の作品に比べて「つぎはぎ感」は否めないです。
ですが、彼の「宝探し的な」文学スタイルや「春樹語」の形成段階を見て取れる、という意味ではのちの作品理解を深めると思います。(この辺りオタクですみません…)
第9位 『1973年のピンボール』
出版社:講談社
発売日:2004-11-16
【あらすじ】
1970年の冬、「僕」はあるピンボール台に魅了されてしまった。
かつて「ジェイズ・バー」にあったピンボール台、3フリッパーのスペースシップ。
「僕」はろくに大学にも通わず、冷えた缶ビールを片手にゲームセンターの片隅で一人ピンボールに夢中になった。
アルバイトの給料の大半を注ぎ込み、あらゆるテクニックを習得した。
いつしかそのピンボール台と会話さえするようになった。
ところが年が明けて2月。突然ゲームセンターは姿を消した。
失われた3フリッパーのスペースシップを求めて「僕」は東京中のゲームセンターを探し回った。
そしてたどり着いた先の光景は…。
「鼠」の乾ききった心と、双子の姉妹208、209との奇妙な共同生活の中で蘇る直子と過ごした日々。
彷徨う彼らが行き着き先は…。
ほろ苦い青春小説三部作の第二作。
【「僕」の主人公像】
前作『風の歌を聴け』を引き継いだ本作の「僕」は、星の数ほどあるピンボール台のうち、たった1つのピンボール台を探し求めています。
「僕」という人物は物静かであまり欲のない人物なのですが、こだわりが強く、「スペースシップ」の為ならいくらだってつぎ込めるし、何処へだって行ってしまうんですね。
そういう、ちょっと頑固なところはあると思います。
ですが、ウィットに富んでいて、双子の208と209との掛け合いには「僕」のセンスを感じます。
あと非常にモテます。
【おすすめのポイント】
作品の中でてくる、ピンボール研究書『ボーナス・ライト』の序文。
「あなたがピンボール・マシーンから得るものはほとんど何もない」
この一文、「そうだよね…」と相槌を打ちたくなる妙な一文じゃありませんか?
このようにピンボールを巡って話がどんどん膨らんでいくところが面白いです。
あと「僕」がゲームセンターで他人からの冷たい目線を感じながらも、ハイスコアを叩き出そうと必死になる姿…。
こういう人、ゲーセンいますよね。
村上春樹を想像しただけで吹き出しそうになりました。
第8位 『羊をめぐる冒険』
出版社:講談社文庫
発売日:2004-11-15
【あらすじ】
妻との離婚を承諾し、独り取り残された「僕」。
彼女が残した荷物は1つもなかった。
それから一ヶ月が経ち、広告コピーの仕事である女の子と知り合う。
彼女は想像をはるかに超えるような美しさと、「耳のモデル」という特殊な能力を持っていた。
ある日、「僕」が務める広告コピーの事務所にある人物がやってきた。
彼らの発行物を差し止めてくれという要求だった。
その人物は右翼の大物であり、厄介な事件に巻き込まれてしまった。
その男が指す発行物には、何の変哲も無い北海道の風景写真が使われていた。
問題はそこに羊が写り込んでいたことだった。
北海道に渡った「鼠」からの手紙をきっかけに、真相を知るべく、北海道の地に出かけた「僕」と耳の彼女。
彼らを待ち受けていた人物は…。
【「僕」の主人公像】
青春三部作としても知られるこの作品。
『風の歌を聴け』で大学生だった「僕」は社会人となり、広告コピーの事務所を立ち上げました。
冒頭で妻と離婚してしまうのですが、彼女の放った「砂時計のような人」という言葉、とても印象的です。
「砂がなくなってしまうと必ず誰かがやってきてひっくり返していくの」
ざっくり言うと、「受動的な人間だ」と言い表しているのだと思います。
前作でも同様、「僕」という人物は欲があまり無いため、激しい感情に突き動かされるような場面がないです。
とても理性的で、何事も慎重に着々と進めるタイプです。
そんな彼がそうして「羊をめぐる冒険」に出るかというと、誰かに求められるからです。
彼は自分から働きかける前に、誰かに必要とされて、もう行くしかない、という段階にまで持っていかれるんです。
それが、砂時計が砂時計として時を刻み続けられる理由、なのだと思います。
おそらく「僕」は非常に魅力的な人物なんですね。
特に女性からしてみれば。
【おすすめのポイント】
注目してほしい人物は、この作品に登場する直子、そして耳の女の子です。
というのも、彼女たちは重要人物なのです。
直子、は1969年に付き合っていた恋人なのですが、とあることがあって亡くなっています。
この女性について描いたのが『ノルウェイの森』です。
そして耳の女の子は、『ダンス・ダンス・ダンス』で「キキ」という人物として登場します。
この作品の中で名前が判明するのです。
それに加えて、彼女たちを含む「僕」の周辺の女性は、なぜか引き込まれてしまいます。
魅了されてしまうんですね。
「僕」はとてもモテるので様々な女性が登場しますが、人物像が本当に様々です。
よくそんなに思いつくな、という具合です。
村上さん、本当に女性が好きなんですね。(作家として必要なスキルなんだと思います、きっと…。)
第7位 『ノルウェイの森』
出版社:講談社文庫
発売日:2004-09-15
【あらすじ】
37歳の「僕」はハンブルク空港行きのボーイング747のシートに座って『ノルウェイの森』を聴いていた。
その曲は僕を激しい混乱へと導いた。
学生時代の、直子のことを思い出した。
直子は「僕」の親友、キズキの恋人だった。
3人は仲が良く、行動を共にしていたが、ある日キズキが自殺してしまった。
キズキを失った悲しみと恋人を失った直子への同情を感じる「僕」。
そんな喪失感を埋められないまま二人は別々の大学へと進学する。
それから月日が経ち「僕」と直子はデートを重ねるようになった。
ところが彼女と初めて夜を共にした直後、彼女は姿を消してしまった。
一人になってしまった「僕」の前に突如現れた緑。
活発な彼女は直球的なアプローチで「僕」を必要としている。
「僕」と直子と緑が織りなす、傷つきやすく、孤独で、繊細な恋愛物語。
【「僕」の主人公像】
今回の「僕」は高校生から大学生にかけて成長していきます。
高校時代のキズキとの楽しかった日々から、直子、そして緑という女性との関係を通して繊細な感情を抱くことになります。
こうした点が前青春三部作とは異なり、もっと人間の柔らかい部分を「僕」が抱え、そして向き合っています。
【おすすめのポイント】
松山ケンイチ主演の映画にもなっているこの作品。
見所は、直子と緑、それぞれの女性像の大きな違いだと思います。
直子は都内の女子大に通う女の子です。
キズキの死後、「僕」と恋人同士になるのですが、夜を共にした後から大きな混乱を抱えるようになります。
彼女は華奢で、繊細で、女性らしい人物です。
一方緑は活発で、素直な女性です。
思ったことはすぐ口にしてしまうから、誤解されることもあります。
それでも自分に素直であることをやめないんです。
そんなエネルギッシュで素直なところに、「僕」は惹かれて今います。
緑が「僕」に「完璧なわがまま」を苺のショートケーキで例える場面があるのですが、彼女のこの発言、激しく同意しました!女性の方ならわかるのではないでしょうか?ここ、ポイントです!
第6位 『ダンス・ダンス・ダンス』
出版社:講談社
発売日:1988-10-24
【あらすじ】
『羊をめぐる冒険』から4年が経った。
「いるかホテル」の夢を見る僕は、誰かに呼ばれているという予感がした。
それは耳の女の子、キキだった。
彼女かつて過ごした「いるかホテル」求め、激しく雪の降る北海道へと向かった「僕」。
そこで目にしたのは、26階建ての巨大な「ドルフィン・ホテル」
「いるかホテル」はどこへ消えてしまったのか、受付嬢が迷い込んだ16階の秘密とは…。
高度資本主義社会のシステムとそれに違和感を覚える「僕」。
「僕」の踏む奇妙で複雑なステップは「トレンディ」とは言えなかった。
【「僕」の主人公像】
『羊をめぐる冒険』と同様、今回も何かを探し求めて「僕」は冒険に出ます。
そしてそこで目にした「ドルフィン・ホテル」に腰を抜かしてしまいます。
さてこの「僕」という人物は、フリーライターとして生計を立てているのですが、自分を「トレンディじゃない」と言うんです。
「トレンディ」というのは、高度資本主義のことです。
ここでは無駄遣いが最大の美徳だと「僕」は考えるのですが、そんな彼は真面目に取材を行うタイプのライターなのです。
例えばグルメに関する記事なら、お店の写真を撮って、一口ご飯を食べて、適当に記事を書けば、1日にいくつもの記事が書けますよね。
ところが彼は真面目にこなしてしまうんです。
無駄だとはわかっていても。よく読んでみれば浮かび上がらないようなごくわずかな差しか生まれないと知っていても。
彼は高度資本主義のシステムに順応しない人間なのだと思います。
お金とサービスを交換する「資本主義」に「高度」をつけることで、「贅沢」なサービス、「高額」な利益を連想しますが、それを得るためのシステム、に共感できないタイプの人、という意味で「トレンディじゃない」のだと思います。
【おすすめのポイント】
彼の作品に登場する人物はみんな奇妙で特徴的な人物ばかりですが、今回も一風変わった人たちがたくさん出てきます。片腕のないアメリカ人や、同級生の映画俳優、霊感を持つ美少女、そして村上春樹作品に欠かせない人物、羊男。
村上春樹の文学スタイルも熟成した本作は、高度資本主義システムと、人と人をつなぐ「配電盤」というキーワードから、システムと人間の関係についての示唆が織り込まれています。
[ad#ad-1]第5位 『スプートニクの恋人』
出版社:講談社
発売日:2001/4/13
【あらすじ】
22歳の春、生まれて初めて恋に落ちたすみれ。
その恋は激しく、同時に叶わぬ恋だった…。
すみれが恋をしたのは、海産物の貿易会社に務めるミュウ。
ミュウはピアニストを志していたものの、ある事件をきっかけにピアノを弾かなくなってしまった。
二人は共通の知人の結婚披露宴で出会った。
すみれは一目でミュウに恋をしたのだ。
ミュウに夢中になるすみれと、彼女に恋心を抱きつつもそれを見守る「僕」。
すみれの叶わぬ恋が向かう先とは…。
【「僕」の主人公像】
主人公の「僕」は小学校の先生を務めているのですが、非常に物の例えが上手なんですね。
例えば、すみれは小説家を志しているのですが、小説を書くという行為について古代中国の大きな立派な門を引き合いに出します。
その門を作るのに、その土地の霊魂を収めるために戦場から兵士の骨を集めて埋め、生きた犬の温かい血を門に掛けた、というエピソードです。
小説はこれに似ていると「僕」はすみれに説明します。
物語というのはある意味この世のものではなく、本当の物語をあの世とこの世を結ぶための洗礼が必要なんだ、と。
おそらく、小説家としての「温かい血」、血の通った自分の生きた経験や思想を物語に注がなくては、物語にはならない、ということだと思います。
「僕」はそんな風にすみれに説明してあげます。
(すみれは結論を急いでしまうので時々飛躍してしまいますが、そんな二人の掛け合いが面白いです)
【おすすめのポイント】
注目して欲しいのは、恋愛物語が今までと違った切り口で展開されることです!
読んで欲しいので敢えて言いませんが、作家の想像力のすごさが表れています。
しかしその「奇妙な」恋愛模様に、人間の求める「愛」のリアリティが浮き上がっているんです。
村上春樹のいう、虚構という光で現実を照らし出す、という物語の持っている力ですね。
お見事です。
第4位 『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』
出版社:新潮社
発売日:2010-04-08
【あらすじ】
数字を操り暗号を取り扱い「組織」に属する計算士である「私」は、ある老博士から依頼を受ける。
それは博士の研究所で「シャッフリング」を行なうという注文。
この技は潜在意識を利用した数値変換術であり、「私」にしかできない技だった。
そんな中「組織」には敵対関係にある「工場」という暗号解読を行う集団がいた。
両者は暗号の作成と解読を繰り返し、情報戦争になっていた。
そんな中、「やみくろ」という地下潜む化け物に老博士が襲われ、それをきっかけに「私」は救出へ向かう。
一方、「僕」は周囲を高い塀で覆われた「世界の終わり」に住んでいる。
街に入るとき、門番によって記憶を奪われた「僕」はそれ以前の記憶を失った。
「僕」はその街で、図書館で「夢読み」という、一角獣の古い夢を読み取る仕事についている。
ある日、老博士から依頼を受けた「私」はある報酬をもらう。それは何かの動物の骨だった。
この動物の骨を通じて、二つの世界が奇妙に連動していくが…。
【「僕」「私」の主人公像】
「僕」という存在と「私」という存在。
タイトルからご察しの方もいらっしゃるかと思いますが、この作品は二つの世界を交互に描いた実験的な作品です。
「僕」は「この世」的な人物です。
「計算士」という奇妙な職業についてはいますが、住んでいる世界は私たちの住んでいる世界に近いものです。
これまでの村上作品に登場する主人公のように、物欲の少なく、理性的で、ハードボイルドな人物です。
一方「私」には「あの世」的なところがあります。
高い塀に囲われ、川が流れる、閉鎖された静かな場所で暮らしています。
そして街に入った時に失った記憶、「影」という存在。引き剥がされてしまった「影」と一体になることで、完全体の「僕」になるのです。
【おすすめのポイント】
実験的な構図から伺えるように、以前のムラカミワールドとは違う世界観を織りなしています。
特に、物語が進行して二つの世界の接点が見えてくると、大きなテーマが見えてきます。
心とは一体何か?
目に見えない心。その存在について明らかにするためには、こうした奇妙な構造が必要だったのでしょうか。
また、結末に関して賛否両論あり、村上春樹自身、何度も書き直して様々な展開に至り、最終的に決めたものにしたんだとか。
村上作品から見ても異色の作品です。
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