『刑事コロンボ』シリーズ~傑作から隠れた名作までの超おすすめランキング~:第10位~第4位
10位 偶像のレクイエム
主演:ピーター・フォーク
販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
発売日:2015年11月26日
【簡単なあらすじ】
ゴシップ専門のコラムニストとして名を馳せるジェリー・パークス(メル・ファーラー)は、往年の大女優(今は落ち目にある)のノーラ・チャンドラー(アン・バクスター)が「200万ドルの損額を映画制作社に押しつけた事実」を知り、それをネタに彼女をゆすり始める。
そして同じ頃、ノーラの秘書として勤めるジーンがそのゆすり屋と化したパークスと結婚すると言い出した。
ジーンはノーラに「大丈夫。
あなたのことは何も言わない」と念押しをするが、結婚して時が経ってしまえば情も移り、ジーンがパークスに自分の秘密をバラシてしまうかも知れない。
またそれをネタにして、あることないことを書かれてしまうかも知れない。
ノーラには12年前に引き起こした、もう1つの秘密があった。
妄想が妄想を呼び、ノーラの心は窮地に立たされ警戒し始める。
ある夜、パークス邸に戻ってきたパークスの車が爆発し炎上する。
パークスが乗っていたのかと思いきや、乗っていたのは秘書のジーンであった。
【見どころ&見せ場】
間違えてしまった車の炎上
ノーラはコラムニストのパークスをことに嫌い、緊張した警戒の中、「これ以上は生かしておけない」と踏み切って殺人の計画を立てます。
方法は車を待ち伏せて爆破させ、そのまま炎上死させるというもの。
けれどそのとき車に乗っていたのは、そのとき殺すつもりのなかった自分の秘書・ジーンでした。
このときのノーラの表情と、その直後の言動が見ものです。
一見、間違えたかのように見えたこの殺人を、あたかも予定調和に組み入れていくノーラの強靭な計画性(敏捷性)は、本作『偶像のレクイエム』を浮き立たせるための奇妙な経過を発揮します。
パークスにゆすられ始める元大女優
パークスはゴシップネタ記事専門のコラムニストで、女優にまつわるネタ記事を書くのはお手のもの。
言えば日常茶飯事の作業だったが、それが講じて実際にゆすりたかりの分野にまで発展して行く。
自分に与えられた分業(ノルマ)の範囲を軽く超えて行くパークスの言動に、何か人が夢中になるときの盲目的な動きが見えてきます。
またそのことを受け、段々狂気の豹変に巻き込まれていくノーラの様子。
ノーラには12年前の惨事によるキャリアがあり、その経験を生かしながら〝窮地を乗り越える強靭性〟があります。
この辺りのパークスとノーラ2人の脱線したようなかけ引きは、本作のドラマを脚色するための引き金になっています。
12年前の惨事
惨事というのか謎というのか、ノーラの夫に関することですが、12年前にノーラの夫は帰らぬ人となりました。
12年前、夫は海にボートを漕ぎ出したまま、その沖にて事故に遭い亡くなります。
けれどこの辺りの真相が未だにはっきりとはせず、「ボートを出して海まで出たのは、実は夫に化けたノーラだったのでは?」という新たな事実が浮上してくる。
「夫をどこか別の場所で殺害し、その遺体をボートに乗せて事故死に見せかけた?」というような、いわゆる仮説が捜査展開においてクリアになってくる。
ノーラと夫は同じ背格好をしており、ノーラは夫に化けようと思えば化けられる。
1つの事件に過去の事件が絡むことはよくありますが、本作でのこの「重なり方」は、ノーラが現在住む邸の庭の辺りを、よほど暗く無気味に奏でるのに効果を発揮します。
つまりとても〝何重にも深い重なり〟に見えてくるのです。
絶対売らないバンガロー
ノーラは、もう財産的に何の価値もない古びたバンガローを所有しています。
いくら勧めても売ろうとしない。
そこには噴水があり、けれどその噴水はもうずっと以前から水が出ていない。
加えて配管工事もせず、人工的な手入れは何も施されていない。
まるで開かずの扉のようになっているその噴水は、1960年9月16日(現行の事件発生から約12年前)、夫がちょうど失踪した翌日に注文されたものだった。
〝なぜ?〟
この疑問がいよいよ濃くなっていきます。
9位 美食の報酬
著者:リチャード・レビンソン
出版社:二見書房
発売日:1993年12月
【簡単なあらすじ】
料理評論家として大御所のポール・ジェラード(ルイ・ジュールダン)は、その著明度を生かしながらの批評や記事で、巷のレストランの状況を左右できる大物実力者でした。
そのポールがある日を起点にして、各レストランのオーナーたちを裏で脅迫し始めます。
そんな中、イタリアン・レストラン「ヴィットリオ」を経営するヴィットリオ・ロッシだけはポールに反旗を翻し、これまでのポールの薄汚い非道のやり口をみんな公に出してやる、と逆に脅迫し始めます。
「自分の正体だけは公表されたくない、ヴィットリオの口を封じねばならない」と思い立ったポールは、そのヴィットリオを殺害するための準備にフグの調理に取りかかります。
それからポールは和解しようとヴィットリオの気持ちを静め、ヴィットリオと会う日時を決め、そこでフグ毒を混入させたワインを飲ませてヴィットリオを殺害する。
ヴィットリオと会ったのは午後8時だった。
そしてコロンボの登場。
コロンボははじめからこのポールに目をつけ、ポールの元から離れず、つねにポールを監視する姿勢を突きつけていた。
ポールがこのヴィットリオと会った当日、あらかじめ午後8時55分の飛行機を予約していた。
このことに不審を持ったコロンボは、はじめからこのポールの言動に疑問を感じていたのです。
そしてストーリーも中盤から後半を迎え、ポールはコロンボを食事に誘います。
そしてまたヴィットリオを殺害したのと同じ方法でコロンボを殺害しようと目論見ます。
【見どころ&見せ場】
ヴィットリオとポールとの食事シーン
食事シーンが云々というよりも、やはりフグ毒の効果の方に目が移るでしょう。
「フグ毒ってこんな感じで効くんだ…」とぽつり言わせるようなヴィットリオの倒れ方は、なにか冷観しているポールをよそ目に、とても残酷かつ可哀相に見えてしまいます。
またこの食事シーンが映るまでの静けさにご注目下さい。
〝嵐の前の静けさ〟を物語るような静けさが、2人の辺りをぐるりと取り囲み、言えばこの〝静けさ〟によってヴィットリオは「逃げられない」と悟ったようなあり方です。
いやどう観るかは観る人次第で幾様にも変わります。
ポールの不自然に陽気・軽快な動き
イタリア特有の陽気が目立つからか、ポールの動きは何だか終始変に見えます。
明るく振舞っていたかと思いきや、また急に静まり返り、その静けさから狂気のような恐ろしさを醸し出します。
言えばその極端さが、今回の犯人像を程よく彩っていると見ても可笑しくないかも知れません。
終盤においてもこのポールの異常な軽快・軽妙さは変わりません。
ここまでを観て逆に言えば、「追いつめられたゆえの足掻き…?」のようにも見えてしまうので不思議なものです。
コロンボのすり替え術と決め台詞!
ラストシーンでのコロンボの追いつめ方に、この〝すり替えの術〟が冴えています。
ポールは最後、このコロンボさえも殺そうとして、ヴィットリオを殺害したときと同じ方法をもってワインにフグ毒を混入させ、それをコロンボに飲ませようとします。
ですがコロンボはそんな手口をすでに知っていたので、ポールの見えないところでさっとグラスをすり替え、逆にフグ毒が入ったワインをポールに飲ませようとします。
むろん警察ですから完遂はしません。
「おっとそいつはいけません。
飲んじゃいけない。
あなた、また栓抜きをすり替えましたね。
でも私はグラスをすり替えたんです。」
コロンボはこう言うと、ポールはたった今まで飲もうとしていたワインに〝フグ毒〟が入っていることを教えられ、その恐怖をすでに知っているだけに驚愕を隠せません。
ポール「…(冷や汗タラリ)…」(何も言えずに沈黙)
そして畳みかけるように言うコロンボの決め台詞。
「そいつは毒入りの分で、あたしが飲むはずだったワインです。
いいですか、証拠ってのはこういうのをいうんです。」
コロンボの決め台詞、もう1つ
ポールは逮捕後、コロンボに訊きます。
「いつから、私に目をつけてたんだね」
するとコロンボ。
「いやぁ、ほんと言いますとね、初対面の2分後からなんです。」
はじめからこのポールに目をつけていたコロンボは、ポールを容疑者ではなく、犯人と特定して捜査していたわけです。
このときのポールの表情も見逃せません。
フグ毒の注入法
非常に細かな細工ですが、フグ毒を注入するときポールは、ワインボトルにいちいちフグ毒を持ってきて注入するのではなく、あらかじめ用意していた(ワインの栓抜き用の)カートリッジにフグ毒を仕込んでおき、ただ相手の目の前でワインの栓を抜く度にフグ毒を注入していました。
この細工に辿り着くまで、コロンボも少し創意したようです。
なかなかストーリー全体として緻密に練られた仕掛けが満載で、それでも自然な描写が上手い本作は、シリーズ中でもかなりの成功を遂げていると思えます。
8位 祝砲の挽歌
主演:ピーター・フォーク
販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
発売日:2015年12月18日
【簡単なあらすじ】
時代錯誤的な陸軍幼年学校の創設者・ヘインズ(トム・シムコックス)は、同校の校長ラムフォード大佐(パトリック・マクグーハン)に「じきにこの学校は男女共学の短大に作り変える」と通告を受けます。
理由は経営不振、戦争も起きないのに兵隊の養成学校を作ったって、何の得にもならないからです。
しかし大佐はその決定に強く反対し、何としても養成学校を残すことに尽力します。
大佐こそが時代錯誤の甚だしい、兵隊上がりの頑なな人物でした。
だからヘインズの言うことには一切耳を貸さず、断固、この養成学校の存続を理想に掲げて邁進します。
大佐がそんなだからヘインズの方も頑なになり、大佐の言う事は一切聞き入れず、やがて本当に来季から養成学校は短大に移し変える計画に踏み切ろうとしていました。
そんなとき、大佐は「そんなことさせてなるものか!」と、ある計画を立てます。
それがヘインズの殺害計画。
方法は学校の祝典の際、恒例である祝砲を撃つ役をヘインズにさせ、その祝砲にあらかじめ細工を施しておき、撃ったと同時に祝砲が暴発してその場でヘインズが爆死するというもの。
時がきて、ヘインズは爆死。
そしてコロンボの登場です。
その祝祭の前日に、祝砲の掃除係をしたスプリンガー(マーク・ホイーラー)という生徒がいました。
その生徒は大佐に言われて掃除をしたとのこと。
当然はじめの容疑者はこの掃除をしたスプリンガーとなりますが、「大佐から直接、祝砲の掃除をせよ」と命じられたという点に、コロンボは疑心を抱きます。
【見どころ&見せ場】
大佐の頑なさ
本作のキーパーソンとなるラムフォード大佐ですが、その性格と表情はまさに堅物。
自分が決めたことしか徹底しないような、そんな人物の典型です。
こんなに自己中なら「こいつが犯人に違いない」なんて簡単に想像できてしまうでしょうが、そこはやはりコロンボ・シリーズの常套。
緻密な脚色・演出により、この大佐もなかなかボロを出さない執着さを呈してくれます。
いつなんどきでも兵隊口調・上官口調を徹底する大佐のやり切れないほどの時代錯誤が、本作の初めからを彩っています。
少しずつ食い違ってくる大佐の言い分
先述の「大佐の頑なさ、大佐は稀代の堅物」を念頭に置いておくと、この辺りの〝言い分のズレ〟を相当楽しめます。
あれだけ徹底していた首尾一貫の物言いも、コロンボに対するとボロが出てくる。
そりゃ当然、〝事件を起こした張本人〟ですから、殺害に至るまでの経過の全てを知っており、「知っていること」を知らないという演技にも、それなりの不自然な力が入るというものでしょう。
世の中に堅物の人はけっこういますが、この大佐を見ていると、そんな世の中の〝堅物の人〟でもこんな窮地に立たされた場合は「こんなになってしまうんだろうなぁ」なんて、少し興味深く見入ってしまいます。
この辺りに妙なリアル感を想定でき、面白いです。
コロンボが学校に入隊!?
学校なので入学・編入となりましょうが、何と言ってもこの場合は養成学校ですので、兵隊の学校に〝入隊〟という形がふさわしく、このタイトルをつけました。
コロンボは学内の様子と事情を自分の目で確かめるべく、自分もヘインズ陸軍幼年学校に入隊し、その内実がどんなものか探りを入れます。
その体験入学でのコロンボと学生たちとのやり取り・対面が実に面白い!これは実際に観てお楽しみ下さい。
実はこのときに「事件解決」へのカギを握ります。
大佐の逮捕後…
ラムフォード大佐はやがてコロンボに追い込まれ、逮捕されます。
その逮捕後に、最後の朝礼として、大佐は全生徒を庭に集めて敬礼し、生徒の指揮を側近の部下に譲渡します。
そして自分はその庭から(警察へ)去って行きます。
何気ないシーンなのですが、「1つの時代が終わった」的な何とも言えない哀愁のようなものが、コロンボを横に添えた大佐の背中に漂います。
この辺りの哀感をどうぞ鑑賞しつつ吟味してみて下さい。
7位 逆転の構図
主演:ピーター・フォーク
販売元:ジェネオン・ユニバーサル
発売日:2011年11月2日
【簡単なあらすじ】
少し堅物のカメラマンであるポール・ガレスコ(ディック・ヴァン・ダイク)は、その妻・フランシスに好いように使われるしがない男。
私生活では「妻のために人生がある」と悲観するほど、メリハリもなく荒んだ状況にあります。
その上フランシスは支配欲も強く、夫・ガレスコがせっかく溜めた財産も自分の自由に費やします。
「これは本当に自分の人生なのか…?」
と悩んだあげく、ガレスコは妻の殺害を思い立ちます。
ガレスコは妻を連れて郊外のモーテルへ。
ガレスコはカメラマンですから、そこで「君の美を変わった角度からカメラに収めておきたい」と言うのに不自然はなく、ただ「妻を椅子に座らせ、後ろ手に縛りつけた上で写真を撮る」という変わった要求をします。
妻は仕方なくガレスコの要求を呑みました。
あるていど写真を撮った後、ガレスコは本心を明かします。
妻に最後の恨みを言いながら、動けない妻をそのまま射殺します。
ピストルはあらかじめ用意していました。
ダシュラーという出所したばかりの男がおり、彼とガレスコは旧知の仲。
そこでガレスコはこのダシュラーを利用し、「妻を誘拐した犯人」に仕立て上げようと目論見ます。
「身代金の受け渡し」について周囲にわかるように秘書の前で電話をし、落ち合った廃車場でダシュラーを射殺します。
また念入りに、ガレスコはそこで自分の足も打ち抜き、犯人ともみ合った形跡を残すように仕向けました。
そこへ、コロンボ登場。
その廃車場には飲んだくれの浮浪者が実はいて、その男はそこで「発砲された銃の音を2回聞いた」と言います。
そしてその2度の射撃音は〝間髪入れずの連続だった〟とつけ加えます。
コロンボはまず、〝銃の発砲音が2回連続で鳴ったこと〟と、〝なぜ自分の妻を誘拐した犯人なのに、その犯人に妻の居場所も聞かないまま、すぐ射殺したのか?〟ということに疑問を持ちます。
これをガレスコに問うと、「犯人がいきなり襲いかかり、殺されそうだったので思わず発砲してしまった」と言う。
経過と状況証拠は揃っている。
ガレスコのとっさの衝動も冷静に見ると頷ける。
けれど…。
【見どころ&見せ場】
ガレスコとその妻・フランシスの関係
結婚している人には痛いほどわかるかも知れませんが、結婚生活には幸せなときとそうでないときとがあるもの。
その両方を2人で越えて初めて生活が続けられます。
このガレスコとフランシスの2人も、いえば日常でよくある夫婦のように見えます。
ところがガレスコには、この生活に我慢ならないもう1つの理由がありました(これは本作でお確かめ下さい)。
自分の夢や理想を諦めきれないガレスコの不満の様子を、ストーリーを追いながら確認してみて下さい。
するとガレスコにも同情する余地が生まれてくるかもです。
一見、完全犯罪!?
ガレスコが当初、思い描いていた犯行の経過は、誰がどこからつついても崩れない「完全犯罪」に見えるものです。
・妻を口八丁でモーテルまで誘い出し、椅子にくくりつけ、その姿を写真に収めて被害者を脅迫する。
・身代金の受け渡し場所でのもみ合い、あげく正当防衛で犯人を射殺。
・犯人射殺時のもみ合いがリアルに伝わるほど、被害者の足には銃で撃たれた跡がある。
・ダシュラーという別の犯人がいる。
・そのダシュラーから「身代金」についての電話がかかってくるなど、アリバイも完璧。
どれをとっても、一般的に見れば事件解決です。
経過に無理がありません。
この完璧過ぎる経過をコロンボはどのように破るのか!?途中のコロンボの苦悩に注目しながら事件解決をお楽しみ下さい。
事件解決のヒントは意外なところに!?
事件解決を実際に裏付けたのは、一見、見落としがちな「妻・フランシスを写した写真の内容」でした。
ここにタイトル「逆転の構図」が証明されます。
どうぞ本作のラストシーンでご確認下さい。
苦悩の果てにつかんだ糸口でしたが、その経過と結末とのギャップの大きさに、なにやら〝スカッ〟させる爽快な興味深さが表れています。
[ad#ad-1]6位 ビデオテープの証言
主演:ピーター・フォーク
販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
発売日:2015年12月18日
【簡単なあらすじ】
ミダス電子工業の会長であるマーガレット・ミダスは、会社の経営不振にいささか不満を抱いていました。
その工業不審を招いたのは他でもなく、婿養子に入っていたハロルド・ヴァンウィックによる経営振りがあまりにも杜撰だったため。
またやり方も自分の方針と合いません。
そこでマーガレットは息子のアーサーを次期社長に据え、ハロルドに社長を辞めてもらうよう主張します。
けれどハロルドは支配欲と野心が強く、この要求を絶対に呑むことはなく、逆にマーガレットを殺害する計画を立てていました。
マーガレットを殺害した夜、ハロルドはある画廊へ招待されています。
そしてハロルドは、殺害時刻にその画廊にいたことにできるよう、時間トリックを思いつき、ビデオテープに細工をしてそれを証明しようと目論見ます。
会社から外へ出るには守衛所を通らなければならなく、ハロルドはこの守衛所にいるガードマンも利用して、さらに自分のアリバイを完璧にしようと試みます。
「ビデオテープの重ね撮り」
これが時間トリックのステップです。
ところが1つずつのビデオに別の物が映されており、事件発生時からハロルドに目をつけていたコロンボは、このビデオテープの内容に目を光らせます。
決め手の物証は画廊の招待状。
【見どころ&見せ場】
ビデオテープ
本作の決め手となる物証は、「招待状」を映し出すビデオテープの内容です。
ハロルドははじめ、手際よく犯行用のテープの編集にかかり、一見、誰が見てもちょっとやそっとじゃ見破れない、巧妙なトリックを施したテープ内容を再現します。
が、コロンボが登場し、そのコロンボの推理力と眼力によってその〝巧妙なトリック〟は意外な盲点を映し出します。
いわゆるボロ。
そしてそのボロを上塗りで隠すべく、ハロルドはまた(今度は)自宅で綿密に慎重に、「今度こそ完璧なアリバイを示すトリック・テープ」を仕上げます。
が、そこでもまたコロンボの手により今度は重大な過失を暴かれます。
この経過におけるハロルドの苦悩振りと嫉妬の様子が、観ていて何だか楽しめます。
ガードマンとの行き違い
会社の門には守衛所があり、そこで常時ガードマンが待機する形になっています。
ハロルドが画廊から招待状を受けて出かけるときにも、必ずこの守衛所を通過します。
そこでのガードマンとハロルドのやり取りにご注目下さい。
ガードマンの何気ない対応に、ハロルドの異様に不自然な姿勢が浮かんでいます。
この辺りにも、『刑事コロンボ』シリーズならではの〝緻密な感情表現〟が抜きん出ていますね。
普段と違うことをやる
これはコロンボがハロルドを逮捕した後、
「人が普段と違った行動に出るとき、その人にはそれをしなきゃいけない理由がある。
その理由がもし、人に言えないような暗黙に隠された理由なら、その『理由』は犯行動機を物語る重要な手がかりになることがある」
という、日常の私たちの行動にもそのまま言える「共感できる台詞」によります。
コロンボが犯人に目星をつけるとき、やはり必ずこの〝変わった言動〟にまず注目し、それから犯人を追うという論理づいた仮説に基づいています。
これはラストシーンでの展開にありますが、このシーンを見て、何か「『刑事コロンボ』の真骨頂を味わったなぁ」というような感慨にふけりました。
ジーナ・ローランズの美しさ
マーガレット・ミダスを演じている女優さんですが、彼女は実は『刑事コロンボ』シリーズの『黒のエチュード』でアレックス役を演じたジョン・カサヴェテスの奥様で、シリーズ中でもかなりの美貌の持ち主として有名です。
その彼女が本作では被害者の役を演出しており、それまでの活気と色気を魅せる演技力にはたいていの男性は注目するでしょう。
もう「出ているだけで華がある」と言わせるほどの演技力!そして表現を卓越する〝演技あと〟の余韻…。
これを楽しむだけでも本作を観る価値ありです。
5位 5時30分の目撃者
主演:ピーター・フォーク
販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
発売日:2015年12月18日
【簡単なあらすじ】
精神分析医であるマーク・コリアー(ジョージ・ハミルトン)は自分の患者であるナディア・ドナー(レスリー・アン・ウォーレン)と愛人関係でした。
けれど、この関係にすでに気づいていたナディアの夫・カール・ドナーは、ある日、コリアーとナディアが密会に使っている海辺の別荘に先回りして待ち構え、ナディアとコリアーに襲いかかります。
カールは、コリアーが患者にインチキな薬を使っていることや、現に自分の妻とこうして愛人関係を持っていることなどをネタに、半ば脅迫するような口振り・姿勢で再びコリアーに襲いかかる。
それを聞いたとたんコリアーも応戦し、ちょうど暖炉のそばにあった火かき棒を振りかざし、カールに向けて振り下ろします。
カールはそのまま倒れ、やがて死亡。
その後コリアーは、カールが強盗殺人に見舞われたように仕向けます。
そしてナディアと結託し、犯行を完遂させていきますが、途中でそのナディアさえも…。
【見どころ&見せ場】
あらすじだけではわからない、巧妙なストーリーの魅力!
単純にあらすじを一瞥しただけでは、必ず本作に潜む〝貴重な魅力〟には気づきません。
貴重な魅力というのは、なかなかコロンボ・シリーズを通して観ても、本作に彩られたほどのスマートな脚本にはお目にかかれないからです。
一見、何気ない〝不倫の話〟〝その不倫にキレた夫の展開と事件〟程度にしか映らないものですが、よくよく観ていくと、とくに後半のストーリーから〝どんでん返し〟を思わすような盲点の魅力があります。
愛用のライター
コリアーは愛用のライターを持っており、そのライターは「姉からプレゼントされたもの」だとコリアーはコロンボに言います。
けれどこのライターを糸口にして、その後の展開がどんどんコリアーに不利な状況をもたらします。
「犯行は、窃盗殺人によるもの」としていたコリアーでしたが、その犯行現場のカーペットには〝すりへったライター石〟が落ちています。
事件当夜まで現場である別荘は人に使われておらず、さらにナディアもカールも煙草を吸わず、おまけに「犯人はストッキングをかぶっていた」と言っているので、その状態で煙草を吸える人物はコリアーしかいない。
また別荘まで行くのにコリアーが使用した車のタイヤ跡が、犯行現場に残された車のタイヤ痕と完全一致(当然のこと)。
そしてコリアーがナディアにさせた証言には、素人目から見てもわかる矛盾の連続…。
犯人は現場である別荘の玄関近くまでそのまま車で侵入しているのに(そう証言しているのに)、その車のヘッドライトには誰も気づいていなかった。
そしてコリアーは事件の翌日にライター石を新しいものに変えている。
コロンボが見逃すはずありません。
たった1つの「愛用ライター」から、これだけの矛盾点・疑惑の点が暴き出され、コリアーは一気に困り果てます。
「愛用のライターです」と言ったがばっかりに…。
この辺りのコリアーの焦りの様子はシリーズ中でも未聞の珍妙振りです。
本当の目撃者は誰なのか?
本作のタイトルは『5時30分の目撃者』です。
この「目撃者」が事件解決へのキーパーソンになるはず。
そしてコロンボをはじめ、各警察の動きはこの「目撃者」を割り出す算段を講じていきます。
ですがこの「目撃者」の存在にも、実はコロンボによる巧妙な手品が隠されています。
「実はあの晩、あの別荘から出ていく男を目撃している人がいるんですよ」
とコロンボが言う。
それを聞いたコリアーは「そんなはずはない!」とボロだし寸前の応答をします。
そしてデビットとダニエルという、その「目撃者」として紹介された2人が、コリアーの前に登場します。
ダニエルは目が不自由です。
物語の設定においてコリアーはこの2人を知っており、ダニエルが「盲目」ということも知っていました。
そして言います。
「このダニエルが、あの現場を目撃できるはずない」と。
ダニエルがそこにいたことを疑う前に、「見えるはずない」と主張するコリアー。
さて、「本当の目撃者」とは…?
4位 愛情の計算
主演:ピーター・フォーク
販売元:NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
発売日:2015年12月2日
【簡単なあらすじ】
人工頭脳学研究所の化学者・ハワードは、同所所長であるマーシャル(ホセ・フェラー)の息子・ニールが論文の盗用をしている事実を知っていました。
そしてそのニールが「今年最高の名誉ある科学者」として受賞される状況に直面しています。
ハワードはマーシャルに、「息子の受賞を取りやめるべき。
盗んだ論文で栄誉に輝くなどは以ての外」と非難ながらの勧告をします。
そして「もし嘘の受賞を決行するなら、自分が世間に事実を公表する」と、ハワードはマーシャルに詰め寄ります。
けれどもマーシャルは自分の息子を寵愛しており、「息子自身が認めない限り、私はその受賞を阻むものに容赦しない」と言い残して取り合おうとしません。
(自分の名誉にもなるため?)
後日、マーシャルはそのハワードの脅迫めいた言動を食い止めるべく、口封じのためにハワードの殺害を決行します。
【見どころ&見せ場】
ロボット登場
研究所には〝天才少年〟と謳われる余興的存在の少年がいます。
その少年も事件解決に1役買うわけですが、少年の横にはいつも〝ややでっかいロボット〟がいます。
このロボットが少年のお気に入りで、「いつか近未来には、こういうロボットが人間を超えて、圧倒的な能力を持つ新人類になるよ」が少年の口癖(本作での台詞は少し違います)。
このロボット、なかなか愛嬌があって可愛いです。
いえばストーリー中の〝なごみ系〟ともいえるでしょうか。
ニールのあいまいな存在感…
事件のきっかけはお前だろ!?と言ってしまいたくなるほど、このちょっとナヨっとした男は事件発生の前後でも何ら表情が乏しく、依然変りなくその後もちょこちょこ登場してきます。
「なんだろう、この存在感は…?」そう思わされるほど、ちょっとストーリーそっちのけでこの〝ニールの言動〟の方に注目させられたのは果して私だけでしょうか?よく天然の役どころを演じてきたロバート・ウォーカー扮するニール、この辺りの珍妙振りにもご注目下さい。
ラストシーンでの所長・マーシャルとコロンボのやり取り
やはり本作で最も注目すべきは、このラストシーンでの「愛情の認め方・受け止め方」を言う対話の場面でしょうか。
コロンボは人情味あふれる役どころが多いですが、ここで少しシビアに所長の愛情の持ち方・与え方が間違っていると断定します。
そして、
「愛情を使うことから計算が生まれ、本来の愛の姿は、その人の意識の中でしまわれていく」
といったような「人が愛情に浸る過程」を引き合いに出し、素直に育めるはずの愛情は意図的に使うことにより計略に変わるという、愛と人との永遠のテーマのようなものを語り出します。
久々に観たコロンボの、シリアスで締めくくられる場面です。
本作のタイトル『愛情の計算』は、このラストシーンに集約的に表現されていると言ってよいでしょう。
さて、ここからいよいよベスト3の発表です!
『刑事コロンボ』シリーズ中でも傑作中の傑作、名作と謳われる1作ずつには、いったいどんな作品がランクインしているのでしょうか!?
⇒この著者の他の記事を見る
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>19位 指輪の爪あと
>【簡単なあらすじ】
>探偵事務所に務める社長のブリマー氏のもとに、あるお偉いさんの奥さんが「夫の浮気調査」をお願いしていたのでその経過報告を聞きにやってきます(奥さんはケニカット夫人)。
夫と奥さんの事実関係が逆ではないでしょうか?
「夫が妻に対して(妻が浮気をしているのではないかと)疑いを持った。そこで妻の素行調査を夫が探偵に依頼した。」はずですが…。
そのことを “ひねって” 書いておられるとすれば、私の読解力不足でしょうか?
また内容の誤りを発見しましたので。
6位 ビデオテープの証言
ジーナ・ローランズ が演じているのは、会長 マーガレット・ミダス ではなくて、犯人の妻 エリザベス ですよ。