耳をすませばの感想を語り尽くす!あらすじ&おすすめ名シーンまで一挙公開!※ネタバレ解説

耳をすませば

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今回はジブリ作品の仄かな恋愛物語、『耳をすませば』「Whisper of the Heart」の魅力とあらすじ・感想を、なるべくあなたに分かり易い形で徹底解説したいと思います。

元々は『りぼん』(1989年8月号)より連載された少女コミックスに組まれた作品で、それを子どもから大人までが楽しめる〝幅広いエンターテイナー〟に換えた、ジブリならではの脚色・演出が満載の1作です。

古美術品店や神社でのエピソードや、そこからさまざまに沸き立つ恋愛観、また、中学生ならでは悩んだり謳歌できる特有の情緒を巧く紐解く〝衝撃的なバラード〟…、めくるめく奏でられる本作の魅力と名シーンを、ストーリーを追う形で、あなたと一緒に分かち合いたいと思います。

『耳をすませば』詳細

『(DVD)耳をすませば』

出演:本名陽子、高橋一生
販売元:ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント
発売日:2002年5月24日

『(本)耳をすませば』

著者:柊あおい、宮崎駿
出版社:徳間書店
発売日:1995年8月1日

概要

柊あおいの漫画作品であり、それを原作にして、スタジオジブリで近藤喜文監督により制作されたアニメーション映画作品。

【漫画版】
・〈耳をすませば〉
『りぼん』(1989年8月号)より連載。
1990年に『りぼんマスコットコミックス』にて単行本化。
また2005年には文庫本(コミック版)にて発売された。

・(耳をすませば 幸せな時間)
『りぼんオリジナル』(1995年8月号)より掲載。
1996年、『りぼんマスコットコミックス』にて単行本化(上記の『耳をすませば』とは同時収録されている)。
全1巻。
「桔梗の咲く頃」も同じく同時収録。

【映画版】
キャッチコピーでは糸井重里による「好きなひとが、できました」とのフレーズが人気を博す。
また専売文句としては「近藤喜文の、最初で最後の監督長編作品」とその貴重を謳った。

宮崎駿の義父が建てた山小屋には、彼の姪らが昔読んだ少女マンガ雑誌が残されていて、宮崎は毎年夏の休暇中にそれらを読むのが習慣だった。
1989年の夏、雑誌がボロボロになったので、宮崎が農協のスーパーで新しいのを買ったところ、2度目に購入した雑誌に原作漫画の連載2回目が掲載されていて、これに興味を持ったのが制作のきっかけとなった。

しかし映画版として各スタッフによる脚色を依頼した宮崎は、自身でその全編を通読したあとで、その感想がスタッフによる脚色と異質のものであったことに憤慨した、というエピソードもある。

日本の映画では、初めてドルビーデジタルが採用されたことで知られる(従来のアニメに使用された音響・音質効果を上げるため)。

原作者の柊は昔から宮崎のファンであり、以前から本作のアニメ化を期待していた。
その噂を聞いてか知らずか、宮崎も本作のアニメ化を希望していたという。
その2つの経過がコラボして、アニメ化の実現に至った。

作中にはいくつかの古楽器が登場する。
―ヴィオラ・ダ・ガンバ、リコーダー、コルネット(ツィンク)、リュートなど。

引用元:wikipedia

主な登場人物

●月島雫(つきしましずく)/声:本名陽子
●天沢聖司(あまさわせいじ)/声:高橋一生
●ムーン/(声の設定なし)
●月島靖也(つきしませいや)/声:立花隆
●月島朝子(つきしまあさこ)/声:室井滋
●月島汐(つきしましほ)/声:山下容莉枝
●フンベルト・フォン・ジッキンゲン男爵/声:露口茂
●西司朗(にししろう)/声:小林桂樹
●北(きた)/声:鈴木敏夫
●高坂先生(こうさかせんせい)/声:高山みなみ
●原田夕子(はらだゆうこ)/声:佳山麻衣子
●杉村(すぎむら)/声:中島義実

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【簡単】『耳をすませば』3分でわかるあらすじ(映画版)

ある日、読書好きな雫はいつものように、父の勤める図書館で本を読んでいた。

そのとき、自分が借りた本の読書カードにいずれも「天沢聖司」という人物の名前があることに気づき、その「天沢聖司」というのはどんな男子なのか、と段々強く思いを馳せていく。

また、夏休みのある日には、自分があらかじめ「読もう」としていた本を借りようと、当初閉まってした学校の図書館を宿直の高坂先生に開けてもらい、実際に手に取ってその本を借りて読んでみるが、その本に挟んであった図書カードにも、やはり「天沢聖司」という名前が記されている。

まるで自分の興味や行き先を先回りするかのように現れるその「天沢聖司」に、雫は並々ならぬ興味と好意を同時に覚えていく。
ついでに高坂先生に「天沢聖司」のことを訊くが、先生も〝よく知らない(覚えてない)〟と答える。

同じ日、雫は女友だちの夕子と一緒に『カントリー・ロード』の和訳した歌詞について話し合う。
和訳したのは雫で、前々から夕子はその歌詞の和訳を雫に依頼していた。
その出来栄えに納得できない夕子と、さらに脚色をしようとする試みる雫の2人は、即席に作った「コンクリ―ト・ロード」という替え歌風の歌詞に思いつき、笑い合う。

それから2人は帰ろうとするも、雫は本をベンチに置き忘れたことに気づき、急いで戻る。
するとそこに少年がおり、少年は雫に「コンクリート・ロードはやめた方がいい」と軽く窘めた。

談笑が弾んだところで夕子から、「雫の男友だちである杉村が、雫のことを前から好きだったこと」を聞かされる。
けれど雫は杉村を特別「恋人」と意識して見たことはなく、その後、杉村からラブレターのもつれで詰め寄られたとき、はっきりと交際を断っている。
またその際、夕子が実は杉村のことが好きだったということを、無鉄砲に言ってしまう。

またある日、雫はいつものように図書館へと向かう途中、電車の中で不思議な太った猫を見つけ、追いかけているうちにロータリーの前にある小さな古道具屋「地球屋」に辿り着く。
そこで珍しい骨董品(バロン含む)や内装の奇抜さに少し見取れて感動するが、その日はお弁当を父に届ける約束があり、慌てて図書館へ走って行った。
これが雫とバロン・古道具屋との最初の出会いになる。

雫はその後、杉村から告白されたこと、それを断ったこと、また夕子の杉村への気持ちをいい加減に言い放ってしまったこと、などを回想しながら自分の無責任さに落胆しつつも、ふとまた古道具屋「地球屋」に歩を進めていく。

いつも閉店がちな『地球屋』だったが開店しており、雫はその店の前で、あのベンチで会った少年と遭遇。
そこにはあの太った猫もおり、少年と雫の2人は店の中へ入っていく。
その店は、ヴァイオリンを作っている小さな工房だった。
そこで西老人とあとからやって来た彼の仲間が集い、少年、雫を含めた、小さな演奏会が始まる。
またそこで雫は西老人から、実はこの少年こそが雫がこれまでずっと気になっていた、あの天沢聖司であることを告げられる。


〈参考資料〉
【1】『猫の恩返し(徳間アニメ絵本)』

著者:柊あおい、宮崎駿
出版社:徳間書店
発売日:2002年8月1日

【2】『千と千尋の神隠し(徳間アニメ絵本)』

著者:宮崎駿
出版社:徳間書店
発売日:2001年9月1日

【3】『猫の恩返し/ギブリーズ episode2』

出演:宮崎駿
監督:森田宏幸、百瀬義行
発売日:2003年7月4日

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『耳をすませば』7つの魅力!

【その1】姿が見えない、気になる人

やはり本作の冒頭から登場する、「姿は見えないけれど、雫がとっても気になる人」である〝天沢聖司〟の存在が大きいです。
姿が見えないからこそ、その人のことをいろいろ想像し、また自分にとって「魅力的な人物」に仕立て上げてしまう。

これは、とくに中学生頃の学生にとっては、実に「恋愛における常套手段的な素描!」とでも言えましょうか、恋愛するにおいて〝気になる人〟の魅力の引き立て方を、1番効果的にやってのけられる「特有の技!」のようにも思えます。

この前振りのような冒頭を敷くことで、本作のストーリーは視聴者・読者にとってさまざまな脚色が可能になり、また「自分もとくに中学生の頃、こんな経験をしてたなぁ…」などと言わせる共感を呼べる〝隠れた演出効果〟も覗けるでしょう。
また単純に視聴者にとっては、「この雫がいま気になっている人は、いったいどんな男子なのか?どんな風に描かれているのだろうか?」などと、視聴覚的な期待もできるというもの。

ぜひあなたも、雫の気持ちになって、冒頭からストーリーの経過を追ってみて下さい。
男性の視聴者なら、雫を男、天沢聖司を女にしてみるなど、立場を置き換えた見方も一興になるでしょう。

【その2】身近な登場人物たち

ストーリーの冒頭から終始を眺めてみれば、その登場人物に〝特別な人格や容姿を持つキャラクター〟が設定されていないことがわかると思います。
そう、どのキャラクターも皆さんと同様、一般で普通に生活しているような、平凡な人物として描かれているのです。

この〝平凡〟が息衝くからこそ、本作のストーリーの魅力は対照的に彩られ、魅力を奏でます。

ジブリ作品ですから、やはり〝おとぎの国のメルヘンチックな世界観〟を登場させてきます。
すると平凡な人たちは、その〝おとぎの国の魅力〟にするすると、普段してきた日常生活から吸い込まれるような形で誘われます。
この現実から幻想・空想への誘われ方に、本作(というかジブリ)が最も作品をもって主張する「現実と非現実との境界を失くす冒険」が浮き出るように思えます。

毎日を生活していると、ついマンネリが出て、幻想でも創造でも、何らかの刺激がほしくなるもの。
その刺激へ脚色される要素が「もしかしたら現実でも味わえるもの」だったら、おそらく誰でも興味を持つでしょう?
本作はその日常的な空間から「ふっと幻想の世界へ入れる」ような、不思議な展開のあり方を、このような平凡な日常を素描することで引き立てているように見えます。

この辺りのキャラクターデザインや背景設定などに注意して、よくよく幻想と現実との境界を意識してみて下さい。
そこで覚えた感想をじっくり吟味することで、本作に隠された深意をさらに深く味わえるかも知れませんね。

【その3】図書館風景の、何気ない日常

雫は読書が好きで、学校の図書館や、父親が勤める私立図書館によく通いつめます。
そこで広がる日常的な〝何気ない風景〟が、なんだか本作のストーリーを追う傍らで、ほんのり・ほっこりしたような新鮮な景色を与えてくれます。

ストーリーの骨子とは多少かけ離れた部分かも知れませんが、こういう場面も展開要素としては大切に思え、先述しました「平凡と非凡な世界観」を巧く演出していく画期的なオプションともなるのでしょう。

図書館へよく行く人などには特別、〝共感させられる人の動きや物の動き〟というものが、見えてくるのかも知れません。

図書館もアニメ世界を離れた現実において、誰でも通える一般の公共施設の1つです。

本作のストーリーは、言えばこの図書館を起点に展開されます。

何か〝新しい世界〟へ広がる1つの出来ごとが、あなたの町の図書館にも隠れているかも知れません。

そんな想像や感想さえ沸かせてくれる「日常風景を上手く設定した世界」であるからこそ、あたかも「アニメの世界が現実の世界へ飛躍できる効果的な脚色」さえ感じられるのかも知れません。

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【その4】ヴァイオリンの魅力

ヴァイオリンの魅力、ひいては音楽の魅力ということになりますが、人は音楽を聴くとき、あるていどの陶酔感・心酔するイメージをもって堪能するものです。

古道具屋『地球屋』は主に楽器の中でもヴァイオリンを製造する小さな工房ですが、その工房の中でヴァイオリンの音色が鳴り響く、とてもクラシカルな魅力を漂わせてきます。

ここでヴァイオリンが持つ〝クラシカルな魅力〟というのも、「音」を人に聴かせてそれなりの空間に酔わせる大事な要素となるものですが、そうした〝クラシカルな楽器〟を中学生が弾いているという、何とも稀な光景も興味深いもの。

『地球屋』で西老人をはじめ彼の友人、また天沢聖司と雫たちは音楽会を始め、そこでまた小さなサークルを作って楽しみます。
このサークルにできた暖かなムードは、おそらく本作に見られる「人の絆をさらに深めていくまでのベストの表現」に映ります。

ジブリ映画では頻繁に見られる「人の輪の貴重を描いたシーンと経過」になりますが、ここでもストーリー前後の「人間模様のあらまし」を隈なく集約したような、非常に密な感動が冴えてきます。

【その5】静かな経過とロマンチック

ストーリーの中で何度か登場しますが、雫と聖司が2人きりで、なんだかとても静かでロマンチックな空間に佇む場面が映ります。
とくに後半で、夜明けの町を2人で眺めるシーンがあるのですが、そこでは「これから2人にとって、何かステキなことが始まるぞ…」というような、少々ゾクゾクさせる期待感さえ芽生えてきます。

恋人同士がこういう場面に佇む光景はよく見られますが、まだ恋人同士になっていない2人、友だち同士の男女がこのような景色に佇んでいると、やはり当然に「その後の展開」が期待されるものですよね。
その期待感というか「その後の展開へのきらめき」のようなものを、巧く再現しているシーンが要所要所で映ります。

またこのシーンで飛び出す聖司の名言にもご注目!

【その6】受験生ながらのメルヘンチック

受験生という設定がとてもいいと思いました。
雫も聖司も受験生で、これから(きっと皆さんもご経験のある)受験シーズンを迎える、いえば人生の転機を迎える局面にあります。

この転換期の中でこそ、2人は自分たちの将来を描き始めて、自分たちがこれから築き上げようとする「未来予想図」を、とてもきらめいたものに変えていきます。

やはりストーリーはさることながら、本作に散りばめられた現実の世界に上手く浸透していく〝幻想的なノスタルジー〟が、登場人物・背景の運びを巧みに進めているような気がしてなりません。

受験生のときって、勉強するのが億劫で何か他のことをしたくなる〝衝動〟のようなものってありましたよね?机に向かったら、急に(普段なら絶対にしない)掃除をしてみよう、と思ったり、あのとき書(描)いてたポエムや小説や漫画の続きを今こそ書(描)いてみよう、などと思いついたりと、他のことへ気が向けられる焦燥のようなものがありませんでしたか?たとえば雫はその延長で、オリジナルの小説を書き上げてしまいます(後の『猫の恩返し』)。
また聖司は勉強よりも〝ヴァイオリン作り〟に没頭して、「将来はプロのヴァイオリン職人になる!」と息巻いています。

こうした「受験期にある2人の飛躍的な夢への衝動」が、本作の初めから結末を見事に色づけ、たいていの視聴者に共感を投げかけられる「丈夫な土台」を作り上げているように思えます。

ぜひ、あなたも「自分の受験シーズンの頃」を思い出して、本作のベースで活動している〝2人の飛躍〟を感じ取ってみて下さい。
きっと懐かしさとともに、本作を観ている「あなたの現在」からでも〝その頃に覚えた新鮮な向上心〟が甦ることでしょう。

【その7】広い世界観

聖司は「プロのヴァイオリン職人」になるため、卒業を待たずにイタリアへの修業の旅に出ていきます。
雫は雫で「物語を描く小説家・作家への夢」を叶えるべく、両親の反対や説得を受け、自分の道を進んでいきます。
いずれも「自分で選んだ道だから」と自己責任の上で歩む人生になり、その後の自分の人生は文字通り、〝自分だけでそのベースを作り上げる、独立した世界〟を覗かせてきます。

望洋とした人生の荒波に単身で浮き立つというのは、これはそのスタートラインに立ったときに想像できるもの以上に大変なことでしょう。

本作にはまずこうした「人生の岐路を自分で歩く」という独立への世界観があり、また、生司に見られるような「日本だけにとどまらない豊かな人生設計」を思わす闊歩の姿勢を浮き彫りにします。

この辺りに、「舞台が広いこと」にこだわらない「人としての人生に対する広い見識と挑戦」がうかがわれ、スクリーンには映らない「人の成長」という時間的に〝ものすごく広い許容〟が芽生えてきます。

ぜひストーリーのラストまでを観て、その「広く、味わい深い、人と人生の向き合い方」という世界観を吟味し、ご堪能下さい。
この辺りは映画版だけでなく、原作も一緒に読みながら味わってみるとよいかも知れませんね。

本作『耳をすませば』には、これまでお伝えしましたように、ストーリーサイズでは収まり切れない「深みがありながら共感を呼べる、人生賛歌への魅力」があります。
【魅力7】でお伝えしました「広い世界観」ではもっと沢山の魅力が、お伝えし切れないままでその展開中に隠れています。
この辺りの「人と人生の成長と躍進」に注目しながら観てみると、さらに興味深い、斬新な感動がやって来ることと思います。

本作は映画版を観るだけでなく、ぜひ原作も合せてご覧になって下さい。
より深い経過・展開のあり方とその感動が、あなたの胸へ自然と転がり込むでしょう。

では、この「魅力」をもって次に、本作でぜひ観てほしい【名シーン】を厳選して5つ、ご紹介したいと思います。
ご紹介する【名場面】中の1つにでも共感を持たれたら、ぜひ1度本作を手に取って、その共感がどのような感動を呼ぶものか、あなたの目と感覚で確認して下さいね。

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『耳をすませば』5つの名シーン

【その1】公園での、杉村と雫の淡い青春秘話

雫が野球部の杉村から告白されるシーンです。
前もって夕子から「杉村は雫のことが好きみたいよ」と教えられてのことですから、雫も何となくはその展開を読めたでしょう。

杉村は前からずっと雫のことが好きで、ここでやっと、初めてその本心を打ち明けます。
それを聞いてモジモジしながらも、心に気になる人がいる以上、すんなり返事ができない雫。

実に、恋愛する2人だからこその、淡い青春の物語でしょう。

ストーリーのメインは雫と聖司との恋愛・告白・結婚というものを押し出しますが、決してそれだけではない、サイドストーリーでの〝恋愛秘話〟もあったわけです。

この〝サイドストーリー〟があるからこそ、「雫が聖司を、自分の相手に選んだ」という、メインストーリーの土台が気丈を保ちます。
きっと聖司と雫が結婚した後なら、このサイドストーリーも「青春時代の思い出話」のように語られるのでしょう。

【その2】図書館での、「姿が見えない気になる人」へのアプローチ

ストーリーの前半、雫が高坂先生に開けてもらった学校の図書館で、「天沢聖司」と記された図書カードを初めて発見したシーン。

雫はいつも通う図書館で、この「姿が見えない気になる人」をずっと探し当てようとし、また探し当ててしまうことにちょっとした怖さも見せるような、何気ない葛藤を表します。
この表現も実に面白く、「気になるけど、実際に会ってしまえばその理想が崩れる?」や「会って自分が嫌われたらどうしよう?」というような、これもおそらく中学生特有に見られる、思春期頃の不安定によるアプローチに見えます。

この辺りの雫の動静が何ともリアルに見えて、ストーリー演出をさらに効果アップさせる緻密な技法に思われます。

【その3】雫が『地球屋』を訪れる

公園での杉村からの告白を受けた後のシーンで、雫は自分のあり方に少しやるせなさを覚えながらも、とぼとぼと、『地球屋』の方へ歩いていきます。
『地球屋』は普段、閉店しがちな店なのですが、なぜかその日は開いていました。
そこで出会った少し小太り気味な猫と、そしてあの日ベンチの前で出会った謎の少年に会います。

ここでの雫の表情は、なんだか「これから不思議な世界へ入っていくぞ」という気概を思わすような、何とも言えない景観を見せてきます。

先述通りに店の中では、雫が幻想的に描いた〝自分だけのノスタルジックな空間〟と、〝これから始まる新たな人生へのスタート〟が待っていました。

この特別な空間へ入っていく雫の姿、そして少年の姿が、何とも言いようのない期待と感動の面影を残してくれます。

【その4】『地球屋』での音楽会

雫はこの古道具屋『地球屋』で初めて天沢聖司の存在を知り、そこで店主やその友人たちと一緒に、小さな演奏会をします。
そこでは聖司が夢に描いていた「ヴァイオリン職人になる」という将来像も何となく照り映えてきて、まるで雫と聖司の未来の生活模様さえ、その場面に引き出されるような錯覚さえ見受けられます(私だけでしょうか)。

聖司とその周りの人たちとの交流に雫が加わることで、聖司と雫の関係が益々強固のものに変えられていく場面がこのシーンに映ります。

とても暖かなムードの中で、雫が安心しきって聖司と語らい、笑い、またその2人を取り囲む店主や知人・友人たちの笑顔も、その後の2人の未来を暖かく見守っているような、そんな優しいシーンに映るでしょう。

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【その5】聖司が雫を自転車に乗せて、坂を駆け上がっていく

聖司と雫が出会って少し後のシーン。
『地球屋』で演奏会をしたとき、聖司は自分が翻訳した『カントリー・ロード』を雫に歌わせ、互いの心境から立場までを共有し合える、とても近い関係を雫と築き合いました。
それから肝心の「告白」をまだしていなかった聖司が、初めてまともに、雫に「つき合ってほしい」、「結婚してほしい」とまで告白する重要な場面が、この坂を駆け上がるシーンで展開されます。

このときの聖司と雫のセリフのかけ合いが、絶妙によい感じを醸し出します。

(雫)「…降りようか?」
(聖司)「大丈夫だ。
お前を乗せて坂道のぼるって、決めたんだ!」
(聖司)「雫、あのさ…。
今すぐってわけにはいかないけど、俺と結婚してくれないか?きっと1人前のヴァイオリン作りになるから、そしたら…」
(雫)「…うん。
…嬉しい。
そうなれたら、いいなって思ってた。

こんなセリフが2人の間で交わされます。
まるでこれから分かち合っていく人生の重みを、2人ですでに吟味しているような、とても感慨深いワンシーンに映るでしょう。

間の取り方や、表情・言動のあり方と残し方…、それらが絶妙に絡み合って作り上げた「静かながらも、膨大に奥行きのある構成」です。

参考資料を見る

感想&まとめ

私は高校生頃に初めて観て、「仄々とした、とても温かみのある恋愛譚だなぁ」などと、いえばそのときは表面的な感想だけを覚えたものでした。
ですが本作はジブリ作品の中でも「構成や設定に無理がほとんどない貴重な1作」に思われる作品であることが、自分が成長するにつれて段々わかってくるようになり、大学生、社会人になってからもう1度改めて見直すと、また高校生頃とは一風違った感慨を持つことができたものです。

他のジブリ作品、いや映画作品には多く見られるものですが、「成長型の映画」ってよくあると思います。

自分が成長したことによって同じ映画でも、また違った風に映画も成長して見えるという不思議な点です。

本作も、紛れもなくこの「成長型の作品」の1つに思え、そう私は本作だけでも、もう20回以上は繰り返し観たかも知れません。

何度も観ることによって〝深みと感動〟に脚色を講じられる映画、極めて純真な衝撃を与えてくれる作品、というのは、必ず1度観たときに「その感動」を残してくれているものと思います。

ですのであなたが今、「もう1度観たい」と思える作品は、もしかするとこの「成長型の作品」なのかも知れません。

これを機会に、心にどうしてもとどまって残っている作品(映画や本)などがあれば、ぜひ今もう1度振り返って、その1作をご覧になってみて下さい。


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