劇場公開作用映画第3作目に作られた『ルパン三世 バビロンの黄金伝説』は、1985年、ちょうど夏休み前の企画によって子どもにも大人にも楽しめるような脚色をもって放映されました。
「ルパンといえば、山田康雄!」という声が未だに多い中、本作の妙味が斬新に活きる演出のほどは、その山田・ルパンの限りない魅力によって成立しています!
今回はこの『ルパン三世 バビロンの黄金伝説』に息衝く〝数限りないロマンと演出・構成の魅力〟を、余すところなくご紹介したいと思います。
ルパン三世・シリーズを全て観て来た私の独断と偏見で彩った感想&おすすめの名シーンまでを、あらすじとともに一挙公開しますので、どうぞ最後までおつき合い願えれば幸いです!
『ルパン三世 バビロンの黄金伝説』詳細
出演:山田康雄、増山江威子他
販売元:東宝
発売日:2003年10月24日
概要
本作はモンキー・パンチ原作のアニメ『ルパン三世』の劇場映画第3作目にあたる劇場映画で、1985年7月13日に封切られた。
バビロンの黄金をめぐるルパンと老婆ロゼッタ、ニューヨークマフィアのボス、マルチアーノとの争奪戦を描く。TVシリーズ『ルパン三世 PARTIII』(以下、『PartIII』)放送中の映画化である本作は、前作で監督を務めた宮崎駿の推薦で押井守が監督を務める予定だった。
しかし、当初の準備稿があまりに実験的であったため、その内容を危惧した制作側が押井を降板させ、TV版スタッフから吉田しげつぐが新監督に参加し、さらには映画監督の鈴木清順(TV第2シリーズ監修、『PartIII』第13話「悪のり変装曲」脚本)を共同監督に迎え、TVシリーズのスタッフを移行させて制作したという経緯がある。
『PartIII』放送中だったことから、ルパンもTVシリーズに合わせてピンク色のジャケットを着用。
劇中音楽として、『PartIII』では権利の都合上使用されなかった「ルパン三世のテーマ」がTV第2シリーズ以来5年ぶりに使用された。ハレー彗星(ほうき星)が来る時期という筋書きから、この作品に限ってはストーリーの時期設定は1986年2月と確定している。
TVシリーズ放送中に公開された劇場版のうち『ルパンVS複製人間』や『カリオストロの城』は金曜ロードショー上で定期的に放送されるものの、本作品は1986年11月28日に放映されたのち、日本テレビでは30年以上放送されていない。
1995年に公開された『ルパン三世 くたばれ!ノストラダムス』の製作中に山田康雄が死去したため、本作が事実上、山田・ルパンのラスト作品となった。
なお、オープニング・エンディングに河合奈保子が歌う主題歌「MANHATTAN JOKE」が使用されており、河合はゲスト声優として特別出演を果たした。
登場人物・キャスト
【主なゲストキャラクター】
ロゼッタ/声:塩沢とき(老婆)、河合奈保子(正体)
「バビロンの黄金の謎」を探る年齢不詳の老婆。
正体は天使のような美女。
マルチアーノ/声:カルーセル麻紀
バビロンの黄金を探し続けるマフィアのボス。
コワルスキー/声:大塚周夫
バビロンの黄金探しにに協力するマルチアーノの片腕。
ウィリー/声:おぼん(おぼん・こぼん)
コワルスキーの部下。
陳(ちん)/声:こぼん(おぼん・こぼん)
コワルスキーの部下。
インターナショナル婦人警官
インターナショナル婦人警官コンテストの各国代表。
・キャラメール/声:平野文
・チンジャオ/声:潘恵子
・ザクスカヤ/声:吉田理保子
・サランダ/声:戸田恵子
・ラザーニア/声:島津冴子
※名前は各国の代表的な料理名にちなんでいる。
タルティーニ/声:藤城裕士
バビロンの黄金の発掘隊隊長の考古学者。
【登場するメカ・マシン】
オリエント急行
現実で見られる国際寝台車会社のオリジナルの形態。
ノースアメリカンP―51マスタング
アメリカ陸軍の実物のレシプロ戦闘機
T―62戦車
美人婦警軍団がルパンの追跡に使用。
本来は運転手・砲手・装填手の3人が最低でも必要。
ハンヴィー
T―62戦車に破壊されたアメリカ陸軍の高機動多用途車両。
オフロード車(形式不明)
イラクの砂漠でルパンが使用。
【主な声優キャスト】
ルパン三世/山田康雄
次元大介/小林清志
峰不二子/増山江威子
石川五エ門/井上真樹夫
銭形警部/納谷悟朗
ロゼッタ/塩沢とき―河合奈保子(特別出演)
マルチアーノ/カルーセル麻紀
コワルスキー/大塚周夫
ウィリー/おぼん(おぼん・こぼん)
陳/こぼん(おぼん・こぼん)
キャラメール/平野文
チンジャオ/潘恵子
ザクスカヤ/吉田理保子
サランダ/戸田恵子
ラザーニア/島津冴子
サム/緒方賢一
タルティーニ/藤城裕士
ICPO長官/大宮悌二
富豪/田口昂
ウェイター/小滝進
配達員/喜多川拓郎
2分でわかる『ルパン三世 バビロンの黄金伝説』のあらすじ
ニューヨークの寂れた街角をふらふら歩いている老婆がいた。
この老婆は名をロゼッタと言い、バビロンの黄金の秘密・謎を知る唯一の人物である。
ロゼッタはそのままふらふらと〝怪物のマスクをかぶれば入店できる、仮装パーティを催すナイトクラブ〟に入り、そこでルパンに出会う。
同時にそこへ押しかけた銭形警部とルパンの追いかけっこも始まってしまい、ロゼッタとルパンは一旦別れることに。
銭形警部から逃げ切ったルパンはホテルに戻る。
そこにロゼッタが再び現れ、「紀元前5世紀に実在した、メソポタミア文明による古代都市バビロン」にまつわる黄金の謎について話し始めた。
「バビロンが滅びる前に、神の手によって国内の財宝が全て集められ、現在でもその財宝はどこかに隠されている」
という。
これこそが、ルパンがマルチアーノから聞き出そうとしている秘密であった。
マルチアーノはこのバビロンの黄金の謎にすでに気づいており、自分の組織(ニューヨークマフィア)を総動員してその発掘に着手している。
ルパンがバビロンの黄金の謎を知ったことを起点にし、マルチアーノ率いるニューヨークマフィアのロゼッタ追跡・ルパン追跡が激化していく。
一方、銭形警部は「国際婦人警官ビューティーコンテスト」の参加者5人を部下に従え、ルパン逮捕の作戦を計画していた。
マルチアーノ率いるニューヨークマフィアと、銭形警部プラス5人の美女たちが、ルパンをどんどん窮地に追い込んでいく。
マルチアーノの追跡を何とかかいくぐりながら、ルパンは合流した不二子とともに、バベルの塔が発掘されたというイラクへ向かう。
塔の内部に潜入したルパンは、立体映像の美女に出会い黄金の獅子像を見つけるも、「バビロン中の黄金を集めたにしては、財宝の量があまりに少なすぎる」と疑問に思う。
そしてルパンは一旦「バビロンの真の黄金」を探すべく再びマンハッタンへ戻り、バビロンに隠された秘密を徹底的に推理し直す。
結果、「マディソン・スクエア・ガーデンの地下空洞に大量の黄金が存在する」と判明した。
バビロンの黄金の謎を追跡中にマルチアーノによって捕らわれた不二子を救出するため、ルパンはマルチアーノのアジトへと潜入する。
それからバビロンの黄金を巡る争奪戦が開始される。
〈参考資料〉
【1】『(VHS)ルパン三世~バビロンの黄金伝説~』
出演:山田康雄、小林清志ほか
販売元:東宝
発売日:1993年3月1日
【2】『ルパン・ザ・ベスト~TVサイズ編~』
形式:CD
レーベル:日本コロムビア
発売日:2011年8月24日
【3】『映画パンフレット ルパン三世 バビロンの黄金伝説』
監督:鈴木清順、吉田しげつぐ
ショップ:アットワンダー
【4】『ミュージックファイルシリーズ/ルパン三世クロニクル ルパン三世 バビロンの黄金伝説』
形式:CD
フォーマット:サウンドトラック
レーベル:日本コロムビア
発売日:2004年1月21日
『ルパン三世 バビロンの黄金伝説』の7つの魅力!
【その1】「ルパン三世 パート3」に見られる絵グラ・脚色の魅力
本作のキャラクター設定・脚色は(先述の通り)「ルパン三世 パート3」時に彩られたピンクジャケットのルパンをはじめ、顔かたち・容姿も〝縦長・コミック形式〟に似せて作られた、特有のあり方をしています。
なので、現在に見られるような「ルパン三世 パート2」頃の〝バランスの取れたりりしい顔立ち・容姿〟にはあらず、どちらかというと少し間の抜けたような、身軽な軽装によってキャラクター脚色がなされています。
この設定のよいところは、まず躍動と立ち回り、加えて登場する小物や出来ごととの絡み合いに「比較的すっと溶け込める、融合的な動作に優れている点」で、観ていて無理のない脚色・演出をたやすく感じさせる「ルパンならではの魅力」が満載の点です。
ぜひ本作の絵・グラフィックと、「ルパン三世 パート2」頃から現在までの〝定番のグラフィック〟とを対照させながら、本作が織りなす「独特の世界観」をじゅうぶんにご堪能下さい。
【その2】ルパンお馴染みの動きの速さ!
『ルパン三世』ではすでにお馴染みですが、何と言ってもルパン三世の魅力は〝動きの速さ〟!加えてその動きに追いつくように複数の躍動が絡み合う「複線化されたリズムの一貫性」ではないでしょうか?本作でもこの辺りの〝いくつものストーリーや脚色効果と、それに準ずる演出の巧さ〟が満載で、視聴者を不思議な世界観へ誘う傍ら、独特のリズムで楽しませる斬新な掛け合いが抜群です。
とくに「銭形警部とルパンがバイクでレースし合うシーン」や、「ルパンと不二子がバベルの塔に侵入したシーン」にこの効果が表れていますが、無理な脚色や設定をいとも簡単に演出してしまえる〝技〟にはやはり、「すごい!」の一言をもって絶賛するより他ありません。
【その3】必要なもの以外は描かれない
これは『ルパンVS複製人間』にもとりわけ色濃く観られた脚色・演出法ですが、「動く登場人物・事変」以外、不必要なものを全て削ぎ落して表現するという、何とも奇妙で少しもの足りない、寂寥感を漂わす〝プロット技術(映像法)〟の表出によります。
たとえば本作の冒頭部分で、ロゼッタが街中に登場するシーンでは〝動くロゼッタ〟以外のものは目立った展開・経過を見せず、ロゼッタだけを確立して際立たせるという、特殊な技法により演出されます。
これは『ルパンVS複製人間』で採られた「ルパンがマモーの邸の中を徘徊するシーン」や「不二子が砂漠を歩きながらルパンを追い求めるシーン」での脚色法と同じで、観ている者に「何だかもの足りない表象」を体感させながら、そこに幻想を抱かせるという特異なサラウンド効果を狙えるものです。
つまり、とても哀愁が漂う、もの寂しいシーンに映るわけです。
この哀愁の感じや〝もの足りない寂寥感〟を視聴者の感情に持たせることで、視聴者はさらにその映像の中に「ノスタルジーのような幻想」を求めることになり、アナログ効果に釘付けの感覚を持たされます。
ぜひ百聞は一見に如かずということで、1度実際に映像を観てご確認下さい。
実感をもとにした理解の方が、この特殊な映像法、特有なアニメーションによる感覚、またその効果による釘付けまでの経緯が、より自然に得られると思います。
【その4】古代ロマンの共鳴(ひびき)
ストーリー現在と古代メソポタミアの文明を同時進行させることで、ストーリーへのプロット作成はなかなか〝深い味わい〟を醸した濃厚な演出によって彩られます。
その〝古代の匂い〟を所々で目立たせながら、現在進行しているストーリー時間を色づけることにより、ストーリーと太古の間を極力縮めていける「特殊効果」のような自然と共鳴します。
この「共鳴」に、人が歴史に感じる〝太古へのロマン〟が芽生えるのでしょう。
「ルパン三世」シリーズでは多くのこうした「古代ロマン」を扱ったものが多く見られますが、本作でもその効果は斬新なプロットをもって作成されていて、いえば他作よりもその点が目立って際立つようにうかがえます。
『ルパン三世』のTVシリーズ『ツタンカーメン三千年の呪い』(セカンドシーズン・第7話)では「ツタンカーメンにまつわる太古ロマンへの想像感」が扱われ、『吸血鬼になったルパン』(セカンドシーズン・第34話)では「架空の人物であるドラキュラ伯爵やバンパイアをもじった、歴史的な脅威を秘めたロマン」が採られています。
本作では「バビロンの盛衰」をはじめ、キリスト教の聖書にも登場した(少しマニアックな)エピソードもストーリーに取り入れた形で、その〝太古ロマン〟―ひいては「古代ロマン」への構成をとても根深いものに仕上げています。
【その5】声優陣に素人感覚を入れた面白さ!
「ルパン三世」シリーズではときおり、ジブリ映画にも見られる「素人感覚」を持たせたリアル感への追究がうかがえます。
本作ではマルチアーノの声にカルーセル麻紀さんが当てられ、その声色には(わざとなのか)少し〝どこにでもあるような声をもって、ひ弱い人間像〟への演出を見せてくれます。
これも実際に本作を観て確認してほしいものですが、「ニューヨークの大物マフィアのボスがこんな声を出すの?」と思わせるような特異な演出が施され、観る者には少し〝斬新な刺激〟に感じられるでしょうか。
同じく声優に当てられたおぼん・こぼんさんの珍妙な声色のやり取りも、なかなか他作では味わえない貴重な空気感を醸し出します。
【その6】要所に取り入れるコミカルな演出
「ICPO主催のインターナショナル婦人警官コンテスト」これだけも面白い演出になっているのですが、このコンテストに登場する4人の美女たちの存在が、本作のストーリーに適度なコミカルさ加減を振りまいてくれます。
銭形警部のルパンに対する滑稽な言動はもとより、この4人の美女が銭形警部に絡んだ上のルパン一家とのやり取りには「なかなかストーリーに挿入される深い構成」と切り離せない、独断的な痛快感が満載です。
ですがいつもいつもコミカルなわけでなく、この滑稽・コミカルな臨場感はストーリーの終始を通して、とても適切な箇所で発揮されています。
とくにストーリー中盤から後半にかけての演出にはこの「適度なコミカル加減」が実に上手く浸透してくるので、観ていてわざとらしく感じられない、透明感を持ったバラエティに映ります。
どうぞお見逃しなく、「古代ロマンを味わわせるエンターテイナー」の副菜にしてやって下さい。
【その7】BGMをはじめ、挿入歌の美しさ
本作のテーマ曲・挿入曲は、当時アイドルとして人気だった河合奈保子さんによるものです。
この『バビロンの黄金伝説』のために書き下ろしで作られた曲がほとんどで、その曲の内容は本作のストーリーにとてもマッチしている〝魅力的な美しさ〟を醸し出します。
とくにおススメは、ストーリー途中で流れてくる『SONG OF BABYLON』でしょうか。
奈保子さんの透き通るような声の魅力がじゅうぶんに発揮された、渾身の一曲と言ってよいでしょう。
何とも言えない不思議な幻想感を漂わせつつ、先述した「太古ロマン」への響きをとても巧く捉えた1曲で、その表現枠は映画を越えるほどの哀愁感さえ届けます。
ぜひ本作を観ながらご堪能下さい。
またこの幻想感あふれる『SONG OF BABYLON』に加え、『ルパン三世』特有のアフロ感を匂わすファンキーな音楽も沢山盛り込まれています。
ストーリー冒頭に登場する〝仮装パーティが催される酒場〟のシーンで流れた『FUNKY MONSTER PARTY』をはじめ、『SEXY PINK PANIC』やお馴染み『THEME OF LUPIN the 3rd』、また本作のオープニング曲である『MANHATTAN JOKE』も、非常に本作の魅力を引き立たせる安定した楽曲と言ってよいでしょう。
本作の魅力を言えば尽きることはありませんが、大体こんな感じの7点がまず浮き彫りになります。
ですが7点の1つ1つにおいても、まだまだ語り尽くせていない〝隠れた魅力と陶酔感を与えるほどの構成力〟が存在しますので、この辺りはぜひ、実際にご覧になって確認して頂きたいです。
『ルパン三世 バビロンの黄金伝説』の7つの名シーン!
【その1】ロゼッタばあさん登場のシーン
本作のストーリーに欠かせないロゼッタばあさんは冒頭から登場し、何とも言えない哀愁と寂寥感を同時に醸し出しています。
本登場シーンはまるで場末の街中を徘徊するような光景で、しがない・身寄りのない初老の老婆を、実にリアルかつ陽気に演出しているロゼッタの風貌に光っています。
またこの登場シーンは実に鮮明な、不思議な魅力をもって脚色されています。
このシーンでロゼッタは『SONG OF BABYLON』の冒頭の歌詞「ハウメニーマ~イル」と陽気に歌いますが、その表情ですら陽気でありつつどこか切ない、「自分の寂しさを物語る孤独の心」を歌う様子があります。
ルパンと出会い、ルパンを好きになるまでの、ロゼッタの女性としての体裁と心理が半ば浮き彫りになっている名シーンです(これは仮装パーティが催された酒場にて)。
本作のキーパーソン・ロゼッタばあさんの登場シーンでもありますので、どうぞお見逃しなく押さえて下さい!
【その2】ウィリーと陳の滑稽劇
ウィリーは次元大介に、陳は石川五エ門に扮し、ルパンが来る仮装パーティの酒場に潜伏しています。
ルパン一家の壊滅を狙うはずが、どうしても間抜けな多面が光ってしまい、なかなか上手く事が進展しません。
あげくは本物の次元と五エ門にコテンパンにやられてしまい、また自分のボス・コワルスキーにもハエたたきでこっぴどく叱られてしまいます。
どこか愛着の抜けない可愛いマフィアの2人ですが、本作のストーリーには貴重なバラエティ要素を多分に与えてくれる、実に欠かせない脇役になっています。
この2人も『ルパン三世』でよく登場する「面白さを引き立てる脇役」に数えられますが、本作の不思議なストーリー感に上手く彩られていますので、なかなか深みのある、興味深いキャラクターに仕上がっています。
【その3】銭形警部とルパンのチキンレース
チキンレースというより〝お約束のレース〟と言った方が適切でしょうが、このレース、何とも無理な土台の上で開始されます。
そのレースの場はなんと、巨大な顔が描かれた看板の上!レースに使うメカはバイクです。
アニメならではの脚色によりこの顔は、人間さながらの動きをして見せ、ルパンと銭形警部のレースを上手く引き立てるための演出効果を発揮します。
この不安定なレース場で交わされるバイクとバイクの小競り合いですが、その間でまたまた上乗せして交わされるさまざまな小物を使ったやり取りは、観ていてとてもハラハラさせるリアル感満点の出来栄え!本作で最も躍動感のあるシーンになるでしょうか。
【その4】マルチアーノとコワルスキー
「バビロンの黄金の謎」の秘密を知られ、ルパンに追われて少し形勢が不利になったマルチアーノは、自分のアジトでコワルスキーを傍らに、「ママぁ~」と頼りなく泣いてしまうシーンがあります。
ここでのマルチアーノとコワルスキーとの関係のあり方に、少しその後の展開を思わせる「立場の逆転」が見え隠れしてきます。
コワルスキーは「またか…」とポツリ呟き、泣いているマルチアーノを少々見下したような態度を暗に取ります。
このシーンを観ているだけで、ストーリー後半のなりゆきがほとんど分かってしまうような、後半の醍醐味をふんだんに詰め込んだものに映ると思いますので、ぜひお見逃しなくご堪能下さい。
【その5】バビロンの黄金を追い、バベルの塔からマディソン・スクエア・ガーデンへ!
バビロン、バベルと、まるで2大遺跡を掘り当てたような感覚を受けますが、ルパンと不二子はバビロンの黄金の謎を追う途中で、このバベルの塔の秘密を知らされ、「人間の欲が余りに誇大化し、あげく神の手により財宝は隠されたこと」の真相を知る。
そしてマディソン・スクエア・ガーデンに隠された「死者の流れる排水溝」という〝巨大な水路〟に辿り着きます。
この水路は、まるでバベルの塔を空にではなく、地中に掘り下げた内装に設けられたもので、果てが見えない途轍もない深みを持ったものでした。
その水路に、ルパンと不二子はマルチアーノの罠によって流されてしまいます。
このシーンの壮大さといえば、おそらく本作中の目玉ともいえる「巨大な構成・設定」のもとに織りなされていて、このシーンを通るからこそ「その結末部の構成が深みを持って濃厚に冴える」と言ってよいほど、とてもスケールの大きな空間を醸し立てます。
【その6】チンジャオの、五エ門への愛
インターナショナル婦人警官コンテストの中国代表で登場したチンジャオですが、チンジャオはルパン一家を追いかける途中で、五エ門のことを本気で愛してしまいます(オリエント急行の中でのこと)。
女性ならではの深く優しい愛情ですが、この愛情に応えることがなかなかできない五エ門です。
応えてしまえば、その後の「バビロンの黄金の謎」を追う旅・追跡は不可能になり、またルパン一家ということで突き付けられる危険に、チンジャオを晒してしまうことにもなりかねません。
お互いに好きで愛しているのに、その愛をなかなか叶えられない2人のあり方が、チンジャオの表情にとても色濃く映ります。
五エ門もチンジャオのことを「大陸に咲く、一輪の花よ…」と、自分の気持ちを抑えられずに告白してしまいます。
ルパン一家がICPOから逃げるさなか、海を渡っていくシーンで「ゴエモ~~ン!カムバ~~ック!」と叫ぶときの乙女・チンジャオの姿は圧巻です。
【その7】金色の獅子像を求めながら出会った、ロゼッタの正体
ルパンは「バビロンの黄金の謎」を追いながら、ついにその黄金で固めて作った金色の獅子像の在り処を突き止めます。
そしてピラミッドのような建物の中に入って行きますが、そこで待ち受けていた罠!罠!罠!の連続!この罠をかいくぐって行くルパンの躍動も見ごたえがありますが、その建物の地下に眠っていた「ロゼッタの正体―天使のような姿をした美女」に巡り合うときのルパンの表情が、実に素朴で興味深いものです。
そしてそこで解き明かされる「バビロンの黄金に関する具体的な謎」を聞きながら、ルパンは段々そのロゼッタが「なぜ今になって地上に現れたのか?」という疑問を知るに至り、そのロゼッタのあり方が悲しく思え、つい天使のようなロゼッタの姿を抱きしめようとします。
が、ロゼッタの体は透きとおり、抱き寄せることができません。
このシーンには、本作のメインである「バビロンの黄金の謎」を解明するからくりがありながら、ルパンとロゼッタとの親密な関係も彩られています。
実にしっとり・しんみりとくる、本作中、最大の名シーンと言ってよいでしょうか。
〈参考資料を見る〉まとめ&感想
私は本作『バビロンの黄金伝説』を小学校時、中学校時、高校時、大学時、そして社会人になった今でも何度か観返してきましたが、何度観ても「飽きる」という感想を感じさせない、とても魅力的な作品の1つに数えています。
本作を観るまでに『ルパン三世 ベネチア超特急』(1977年)や『ルパンVS複製人間』(1978年)、また『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)を観ていましたが、それらとはまた別格に違った、不思議かつ幻想的な感動を覚えさせられたものです。
本作のストーリーはさることながら、私はやはり、本作の感動をじゅうぶんに彩るテーマ曲・挿入曲の魅力にやられていたように思います。
先述でご紹介しました『SONG OF BABYLON』の透きとおるような幻想感をともに、本作『バビロンの黄金伝説』の終始を一貫して楽しんでいた記憶があります。
本作の魅力を味わうときにはぜひ、ストーリーやキャラクター設定を楽しむとともに、テーマ曲や挿入曲を添えて楽しんで頂きたいと強く思います。
そうすることでおそらく、本作に隠れた〝古代ロマン〟へのあこがれや幻想を基にした脚色の感動が、余すところなく伝わってくるように思います。
私的に「ルパン三世」シリーズの中では、本作『バビロンの黄金伝説』はベスト3に入る傑作・名作に数えています。
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