山本有三『路傍の石』の持つ意味とは?感想&あらすじを解説!

山本有三 路傍の石

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「路傍の石」(ろぼうのいし)は山本有三の代表的な小説であり、昭和12年に『朝日新聞』に連載後、翌年には『主婦の友』に「新編」として連載が開始された。
けれど戦時中の検閲で内容が引っかかり、連載は中止されて結局未完で終わっている。

今回は山本有三の小説『路傍の石』に「感動した!」という人が多くいることもあり、「その感動はどこからくるのか?」という本意を紐解くような解説に挑んでみたいと思います。

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『路傍の石』作品詳細

著者:山本有三
出版社:新潮社
発売日:1980年5月27日

概要

極貧の家に生れた愛川吾一は、貧しさゆえに幼くして奉公に出される。
やがて母親の死を期に、ただ一人上京した彼は、苦労の末、見習いを経て文選工となってゆく。
厳しい境遇におかれながらも純真さを失わず、経済的にも精神的にも自立した人間になろうと努力する吾一少年のひたむきな姿。
本書には、主人公吾一の青年期を躍動的に描いた六章を「路傍の石・付録」として併せ収める。

映画化・派生作品

(映画)
●1938年版
日活製作。
この作品は文部省推薦映画の第1号に指定されており、キネマ旬報ベストテンでは1938年度の第2位に入っている。

〈スタッフ〉
監督:田坂具隆
脚色:荒牧芳郎
音楽:中川栄三
〈キャスト〉
愛川吾一:片山明彦
愛川庄吾:山本礼三郎
愛川おれん:滝花久子

●1955年版
松竹大船製作・配給。

〈スタッフ〉
監督:原研吉
脚本:池田忠雄
音楽:加藤光男
〈キャスト〉
愛川吾一:坂東亀三郎
愛川庄吾:伊藤雄之助
愛川れん:山田五十鈴

●1960年版
製作は東京映画、配給は東宝。併映は「エラブの海」「オランウータンの知恵」(双方とも記録映画)。

〈スタッフ〉
監督:久松静児
脚色:新藤兼人
音楽:斎藤一郎
〈キャスト〉
愛川吾一:太田博之
愛川おれん:原節子
愛川庄吾:森繁久彌

●1964年版
製作は東映。併映は「おふくろ」と、「狼少年ケン・月夜の出来事」(TVブローアップ版)。
〈スタッフ〉
監督・脚色:家城巳代治
音楽:木下忠司
〈キャスト〉
吾一:池田秀一
おれん:淡島千景
庄吾:佐藤慶

(テレビドラマ)
1966年にNHKで連続ドラマとして放送された。放送日は毎週火曜日。出演は花森常雄、冨田浩太郎ら。

(テレビアニメ)
1986年、日本テレビの「青春アニメ全集」の枠でアニメ化された。前編「中学志望」、後編「つらい日々」の2話からなる。声の出演は鳥海勝美(愛川吾一)、池田秀一(次野先生)、宗形智子(愛川れん)、小磯勝弥(秋太郎)ら。

主な登場人物

●愛川吾一
本作の主人公。
尋常小学校6年生で成績優秀であり、友人間でも「度胸があるキャラ」「気持ちがまっすぐで朗らか」と、誠実、実直な性格の持ち主とされている。
ただ生来貧乏な家に生まれたことにより、もとより希望していた進学・出世への道はなかなか険しく、人生の試練を多く味わってゆく。文学関連の学術が好き。

●愛川庄吾
吾一の父親。
ろくに働かず、そのくせプライドだけはものすごく高い、取っつきにくい人物。
生活の支援にならない自由民権運動などに熱中し、吾一の進学を断念させ、さらに家計を苦しめて平気な顔でいるぐうたらな父親。

●愛川おれん
吾一の母親。
夫の庄吾がろくに働かないため、内職を抱えてなんとか生活をやりくりしている堅実な母親。
吾一の願いを叶えてやりたく、なんとか黒川に頼んで吾一の進学への道を用意しようとするが、子どもの将来を省みず、また黒川と妻との関係を疑った庄吾のために、その努力は報われないものとなる。
結局、吾一が奉公生活しているさなかに亡くなってしまう。

●福野秋太郎
呉服商・伊勢屋の息子。
吾一が当伊勢屋での奉公生活に入ったとたん、吾一を馬鹿にし始め、ことあるごとに吾一をからかうようになる。
けれど根は臆病。

●おきぬ(福野きぬ)
呉服商・伊勢屋の娘。
吾一が奉公生活に入る前まで憧れ、片思いしていた初恋の少女。
秋太郎と同じく、吾一が奉公生活に入ったとたん、次第に吾一を見下すようになる。

●次野立夫
吾一をその小学校時分から可愛がり、何かと面倒を見てきたあたたかみのある先生。
小学校を卒業して「おともらいの仕事」についているさなかのその吾一と再会し、その後は吾一の将来を気づかいながら進学への世話までをしてくれる。
吾一にとっては恩師的存在。

引用元:
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B7%AF%E5%82%8D%E3%81%AE%E7%9F%B3#.E6.98.A0.E7.94.BB


↓参考書籍↓

1『路傍の石(単行本)』

著者:山本有三
イラスト:広野多珂子
出版社:偕成社
発売日:2002年5月1日

2『真実一路』

著者:山本有三
出版社:新潮社
発売日:1950年6月1日

3『路傍の石(アニメ日本の名作)』

著者:山本有三
出版社:金の星社
発売日:1997年6月

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【簡単】3分でわかる『路傍の石』のあらすじ

時代は明治時代の中頃。
尋常小学校6年生の愛川吾一は成績優秀で度胸もあり、担任の教師・次野に何かと目をかけられていた。

吾一の家では没落士族の父・庄吾がろくに働きもせず山林の所有権をめぐる裁判や自由民権運動に入れあげ、母・おれんが封筒貼りや仕立物の内職でようやく生計を立てている状態。

成績優秀な吾一だが、経済的な事情から旧制中学校への進学は諦めざるを得なく、書店の主人・慶應義塾出身の黒川が学費援助を申し出るが、プライドだけは高い父・庄吾は、その黒川とおれんとの関係を疑いながら結局その申し出を断ってしまう。

そして吾一は小学校を卒業後、父が残した借金のカタとして、街一番の呉服商・伊勢屋に丁稚奉公に出される。
そこで劣等生だった友人や、元初恋の人・おきぬからも見下され、ツライ奉公生活を送ることになる。

学校に行きたくても行けない吾一は、金の力だけで進学できる友人や知人を羨ましく思い、自分の将来を憂いながらも、進学の夢を心底に持つようになってゆく。

そんな奉公生活を続けているうちに母・おれんが亡くなり、吾一は父が住むという東京へ上る。
しかしそこでさらなる試練が待っていた。
父はすでに東京におらず、結局吾一は生活を立てられず途方に暮れる。

途方に暮れていた頃、「おともらい稼ぎ」の老婆に拾われ、なんとか生活する中、「文選見習い募集」の張り紙を見つけ、もとより念願だった文字を扱う仕事につくことができた。
文選見習いの仕事をするさなか、元担任教師だった次野先生と再会でき、また彼の尽力の陰で夜学に通うこともできるようになった吾一は、その後、一人前の文選工として成長してゆく。

『路傍の石』の魅力と感動はどこからくるのか?

本作のベースにあるのは何と言っても、「劣境にみまわれ、苦学しながらも進学、出世を果たしてゆく少年から青年の物語」にあります。
たいてい誰もが経験する「なかなか思い通りにはいかない試練を連れてくる経過」において、いかに努力しながら、前向きに人生を歩んでゆくことによって得られる「人間として価値のある報酬」に、本作が掲げる感動があると思います。

決して「くさらないこと(いじけて努力をやめてしまわないこと)」の大切を、本作ではいやというほど説いています。

希望を見失わないという姿勢

たとえば、吾一が小学校を卒業するも進学への道を断念する場面では、一旦「慶應義塾への進学の道」が開けるかと思わせておきながら、結局父・庄吾の性格と思惑のためにその道は閉ざされ、吾一は呉服屋への奉公生活を余儀なくされてしまいます。
ふつう小学校からこんな苦労を味わってしまえば、そこで「人生詰んだ…!」などと投げてしまう場合が多いと思います。
ですがここで吾一は、その初めての大きな挫折にめげず、奉公生活を努力して続けていきます。

このように吾一の前では、試練に満ちた人生が沢山立ちはだかります。

その苦難に満ちた生活を続けていっても、決して恵まれなかった吾一ですが、それでも「いつかは自分のやりたいことができる」「人並の出世ができるようになる」という強い希望をもって、自分の人生をひたすらに歩んでいきます。

呉服屋での奉公をしている間に唯一の頼りの母が死に、吾一は仕方なく身よりを求める形で東京にいる父の元を訪れようとしますが、結局父とは会えず、訪れた東京で何の当てもない「不安かつ貧しい生活」をまたもや余儀なくされてしまいます。

そこでも吾一はその冷遇にめげずに、ひたすら希望を持って自分の人生を歩んでいきます。
この「希望を見失わないという姿勢」が、『路傍の石』で作者が最も読者へ訴えかけていた、本作の本意を伝える際の最重要のテーマであるかも知れません。

「希望さえ持ち続けていれば、きっとその希望は叶えられる」という、安直ながらも人にとって最も大切な「努力の源」を、作者はこの『路傍の石』で読者に再確認させる形で訴えていたのではないかと思われます。

『路傍の石』の持つ意味とは?

『路傍の石』の「路傍」とは、もともと「道の片隅に捨てておかれた、取るに足らないつまらないもの」を意味しますが、たとえばこの「路傍の石」を比ゆ的に見立て、人間一人を「群れの中に紛れた、その他大勢の中の一部」として捉えてみたとき、その「路傍」が持つ言葉の意味は「とても大きな存在」になってくると考えられます。

大勢を構成しているのは、一人一人の人間です。
つまり「大勢」というのは、「路傍の石の集まり」とも(この場合)言えるわけです。

人間一人一人に思想があり、創作できるアイデアがあり、またさまざまな経験によって表現される(喜怒哀楽を元にした)感情があることを踏まえていえば、この「路傍の石」が持つ言葉の意味は「どんなに小さな存在でも、その存在には大勢を構成している一人一人と同じ能力を持った存在」を訴えることになり、「小さな存在(取るに足らない存在)」も「大きな存在(有力者やエリートとされる人の群れ)」も平等に扱われるべきとする、一種の規定のような軸が生まれるわけです。

この「規定を訴えかける作中の骨子部分」に、読者それぞれが感じさせられる「感動」があるのではないでしょうか。

つまり、

「人は皆平等である」という理念をまず掲げ、その上で「人であるからこそ、誰でも希望をもって自分に与えられた人生を全力で生き抜くことがベストであり、そしてその希望は必ず何らかの形をもって報われる!」と訴える点

から、本作に秘められた感動が浮び上がってくるというわけです。


↓参考書籍↓

1『心に太陽を持て』

著者:山本有三
出版社:新潮社
発売日:1981年6月29日

2『山本有三(新潮日本文学アルバム)』

編集:永野賢
出版社:新潮社
発売日:1986年7月

3『生きとし生けるもの』

著者:山本有三
出版社:新潮社
発売日:1955年1月

4『山本有三―人生論読本〈第9巻〉』

著者:山本有三
編集:高橋健二
出版社:角川書店
発売日:1961年

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『路傍の石』のよもやま話

貧しいながらも苦学の果て、東京帝國大学でドイツ語を専攻した山本は、当時ドイツで流行した教養小説の影響を受けてこの作品を書いたと言われています。
また作品が発表された前時代・大正期の社会主義と個人主義の対立を背景に据えていることも、本作を読む上では重要なポイントになってきます。

作中の「吾一」の生きざまや生活環境のあり方が、著者・山本のそれに類似している様子がよくあげられますが、山本自身はそれを否定しているようです。

ストーリー上の「吾一」と山本の生活のあり方は細部を見ると違ってきますけれど、読者の本作に対するイメージにおいて「偏見を与えないように」との作者ながらの思惑が想定される上では、「『吾一のモデルが山本自身ではない』とは断言できない」という見方もあがってくるようです。

『路傍の石』書評

【評価:4.0】

ストーリー設定や構成は非常にわかりやすく、文体表記・描写も平易なものですので、読者にとってはとても「読みやすい・馴染みやすい本」になると思います。

また(先述しましたが)各キャラクターのあり方や思想の成り立ちから見て、非常に現代でも通じる部分が垣間見られ、感情移入できる点や読解を図る上でも、とても都合の好い一作になると思います。

ただ、少しストーリー運びに間延びを感じさせられる点もあり、現代において流行りの本を多く読んできた人には「少し退屈…」という感想があがるかも知れません。

まとめ&感想

本作は当時の世情が色濃く反映された作品と言われており、ちょうど戦前から戦時中に見られた社会主義(エスカレートして軍国主義)やそれに対抗する個人主義(大きく見れば民主主義)の変遷の端境期に発表されているので、読む前には少し「当時資料」を読んでみると味が出るかも…なんて思わされた次第です。

少なからず、発表当時(それより以前の時代)の世情から影響を受けて書かれた作品ですので、社会性が重くテーマとして描かれ、その重厚な「テーマ」が深く浸透した当時の人の生活のあり方から、本作の妙味・醍醐味は生れたのではないかと感じさせられます。

おそらくこの「テーマ」というのは、根強く残る貧富の差や、才能があってどれだけ努力をしても、自分のつきたい仕事や活動になかなかたどり着くことができなかったという、人権における不条理を扱うものだと思います。

社会性を取り入れた時点でその作品は「とても濃厚な一作」となるものですが、本作はその社会性をじゅうぶんに取り入れた上で「感情移入させやすいキャラ立て」も盛り込まれており、読後にはおそらく「非常に根強く残る感動」が芽生えることと思われます。


↓さらなるおすすめ書籍↓

1『山本有三全集〈第11巻〉随筆・評論―定本版』

著者:山本自身
編集:土屋文明、高橋健二
出版社:新潮社
発売日:1977年4月

2『みんなで読もう山本有三』

編集:三鷹市山本有三記念館、三鷹市
出版社:笠間書院
発売日:2006年11月

3『山本有三氏の境地』

著者:宮本百合子
出版社:ゴマブックス株式会社
発売日:2017年2月11日

4『大正・昭和の“童心”と山本有三』

編集:三鷹市山本有三記念館
出版社:笠間書院
発売日:2005年10月1日

5『山本有三正伝 上巻』

著者:永野賢
出版社:未来社
発売日:1987年7月

参考用動画
山本有三氏の「路傍の石」―亀戸天神にくず餅
路傍の石 昭和13年 FC2 Video
「三鷹 文学のある風景」第2回「森鴎外」「山本有三」「武者小路実篤」


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